その数々の絵は、彼の記憶力がスバ抜けて良い事も示していた。描く際にモデルを置かない。部活の展示用として描いた風景画は、どれも写真を見本にしたのだろうと言われたほどだ。

 彼方は、そこでようやく手を止めた。首だけを動かして写真部の少女を確認すると、また君かと言いたそうに眉根を寄せる。

「君こそ、どうして写真ばかり撮っているのさ」

 つっけんどんに言うと、ふいっと視線をキャンバスへ戻した。一人でいる彼は、いつだって煩わしそうに『これ以上話す事が必要なのかい』と言わんばかりの言い方をする。

 それでも全く気にしない様子で、少女は彼方の視線を追いかけるように向かい側へと回った。再び描き始めた彼を、正面のキャンバス越しに少し眺めてから、肩をすくめて見せる。

「好きだからよ」

 そう言うと、彼方の顔を覗き込んだ。

「あなたは?」

 出会ってから四回目、同じやり取りからの質問だ。彼女自身分かっているのだろう。わざとらしいくらいの、きょとんとした表情で答えを待っている。