「…………先週は雨が多かったから、風邪でも引きかけているのかもしれないな」
彼方は、適当にそんな事を呟いて自分を落ちつけた。
独り言を口にしたのは、これが初めてだった。
◆◆◆
夏休みの終わりまであと三日。
恵は、昼過ぎに美術室へやって来た。戸を開く音がして振り返った彼方は、数日前にも会っていたはずなのに、ひどく長い間彼女を見ていなかったような印象を受けた。
「おっはよう! 掲載する写真が決まって、話し合ってきたの! 来月くらいには出来上がるんだって!」
彼女は手に大きな袋を持っていて、いつものように陽気な声を上げて歩み寄ってきた。
「出版社まで足を運んだんだけど、これがなかなかの長旅だったのよ。まぁ両親と色々と観光も出来たし、プチ旅行って感じで楽しかったけどね!」
一方的に楽しそうに話した彼女が、「はいお土産」と言って、袋を差し出してきた。
「食べ物だけど、味のチョイスは悪くないと思うの!」
「ふうん。数日間の旅行なんかして、宿題のほうは大丈夫なのかい」
どうしてかその笑顔から目がそらせないまま、思わず馴染んだ癖のように嫌味を交えた。けれど彼女は、にししししっ、と相変わらず満面の笑みだった。
彼方は、適当にそんな事を呟いて自分を落ちつけた。
独り言を口にしたのは、これが初めてだった。
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夏休みの終わりまであと三日。
恵は、昼過ぎに美術室へやって来た。戸を開く音がして振り返った彼方は、数日前にも会っていたはずなのに、ひどく長い間彼女を見ていなかったような印象を受けた。
「おっはよう! 掲載する写真が決まって、話し合ってきたの! 来月くらいには出来上がるんだって!」
彼女は手に大きな袋を持っていて、いつものように陽気な声を上げて歩み寄ってきた。
「出版社まで足を運んだんだけど、これがなかなかの長旅だったのよ。まぁ両親と色々と観光も出来たし、プチ旅行って感じで楽しかったけどね!」
一方的に楽しそうに話した彼女が、「はいお土産」と言って、袋を差し出してきた。
「食べ物だけど、味のチョイスは悪くないと思うの!」
「ふうん。数日間の旅行なんかして、宿題のほうは大丈夫なのかい」
どうしてかその笑顔から目がそらせないまま、思わず馴染んだ癖のように嫌味を交えた。けれど彼女は、にししししっ、と相変わらず満面の笑みだった。