「え? 宇津見さん?」

 すっかり顔を覚えていた秋山が出てきて、質問を受けるなりきょとんとした。彼方の顧問で、担任でもある小野がいない事を確認すると、少し困ったように頬をかいて見下ろす。

「宇津見恵さんは、数日間はお休みだよ。候補はあるんだけど、仮の部室の件はまだだね」

 何か用でもあったのかい、と問われて今度は彼方が困ってしまった。

 話を聞きに行くなんてらしくもない。そう思いながら職員室を後にして、美術室に戻った。でもその日も、ふとした拍子に、彼女がいたはずの場所に目を向けたりした。

             ◆◆◆

 その翌日の午前中、彼方は開けた窓に寄りかかって運動場の方を眺めていた。集中力も気力もなくて、描き途中のスケッチブックを立て掛けたままぼんやりとしていた。

 二人の顧問教師が訪ねてきて、恵がいないというのに少し椅子に座ってゆっくりしていった。振られる話に適当に相槌を打っていたものの、いつになく自分から話しているような気がして口を閉じた。心配そうにしていた彼らが、少しだけ嬉しそうな顔をしたのがムッとした。