でもね、と彼女がどこか大人びた柔らかい微笑みを浮かべた。普段見せるような少年じみたものとは違って、一人の知らない女の子に見えた。

「きっと、あなただってそうなのよ。時間は沢山あるんだもの。今は分からなくったって、焦らなくてもきっと分かる日は来るわ。過ぎていく時間も移り変わっていく切なさすら、大切でたまらなく愛おしい、という事を」

 まるで自分に言い聞かせるように囁いて、恵が窓の向こうへ目を向けた。

 彼方も、つられて窓の向こうを見やった。一層激しくなった雨が、電気の明かりに反射して、美術室にいる二人をきれいに写し出していた。

「それにしてもひどい雨ねぇ。今日の帰りまでには弱まるかな」
「ひどい雨だけど、君の言葉で言うのなら『きっと雨は弱まる』のだろう」

 そう返したら、恵がいつものきょとんとした顔で振り返ってきた。彼方は、いつもの無表情でその視線を受け留める。

 しばらくお互いを見つめ合った後、恵が、ふふっと可愛らしい笑みを浮かべた。