女子生徒は、特に嫌な顔一つせず美術室を歩き出した。制服の左ポケットの上には、部員一人で設立されたばかりの『写真部』と印字された手製の真新しいカードがつけられてあった。

 他の部室だというのに、平気な顔で堂々と手足を振って室内を横断する。膝よりも短い丈のスカートが、その足元でゆらゆらと揺れていた。

 彼女はキャンバスの前を通り過ぎると、窓辺りで一度立ち止まって外に向けてシャッターを切った。それで一旦は満足したのか、くるりと振り返って、パタパタと彼の後ろへと回り込む。

「どうして人ばかり描いているの?」

 その絵を覗き込むと、そう言って「風景は描かないの?」と続けて尋ねた。数日前、写真部設立に伴い挨拶がてら初めてここを訪れた際、スケッチブックを勝手に見てもいた。

 彼方が描く対象は『人』だった。スケッチブックの中には、老若男女を問わず様々な表情をした人々が描かれている。下描きされた鉛筆が上手い具合影や絵の強弱をつけており、水彩画で仕上げられたものは、薄く色づけがされたようなぼんやりとした印象の絵になった。