言いながら、再び写真から顔を上げた。
 無表情の彼方と、余裕の笑みを見せる恵がしばし互いの表情を見つめ合う。数秒もしないうちに彼女が肩を竦めて、それから「見て」と言って写真を指した。

「私の写真にはね、人のいない風景は一つだってないの」

 そう言われて、彼方は広げられた写真を上から眺めた。

「実をいうとね、私が彼らを好きなのよ。その一瞬一秒だって愛おしいの」

 そんな彼の様子を見つめながら、恵が頬杖をついて白状するように言った。

「こんなにも『その一瞬』を覚えていたくて、だから必死になって撮ってる。私は、彼らに凄く興味を持っているの。一枚だって同じ時はない――これを見て」

 恵はそう言うと、続いて一枚の写真を彼方の前に滑らせた。

「こっちのセミロングの子、私の友達のアユカちゃんなんだけど、これ、一年生の時の写真なの」

 その写真には、真新しい制服に身を包んだ生徒達の教室風景が写し出されていた。その中央前に、被写体となっている華奢な女子生徒が、少し恥ずかしそうな笑顔を浮かべて写っている。