ちょっと気難しいその生徒は、変化を嫌うように毎日同じ事を繰り返していた。だから教師達も、『今日も変わらない一日になるのだろう』とぼんやり考えていた。

 だが今週に入ってから、美術室には教師以外の人間が何度か踏み込んでいたのだ。美術室は工作室と同じく校舎の端にあり、彼方もいちいち語る事をしないため誰も気付いていない。

 昨日と同じく、美術室の扉が唐突に開け放たれた。

 前触れもない開閉音を聞いた彼方は、これといって反応せず黙々と作業を続けた。今日が金曜日である事をぼんやりと思いながら、鉛筆で下書きを進めていく。

 入って来たのは、涼しげなセーラー服に身を包んだ女子生徒だった。ひょろりとした細身で、背丈は男子生徒の平均である彼方と同じくらいはある。健康そうな小麦色の肌をしていて、二つ結びされた髪が歩みに合わせて上下に揺れて肩に当たっていた。

 彼女は、上機嫌そうに鼻歌をうたいながら扉を閉めた。首からさげている薄型カメラを構えたかと思うと、唐突に彼方をパシャリと撮った。それでも彼は、無視して絵を描き続けている。