撮った写真を、彼女はが確認して「にししししっ」と満足気に笑った。弾むような足取りで歩き去っていくその横顔を見た彼方は、そっと窓から離れて椅子に座り直した。

 少し線が引かれただけのスケッチブックを手に取ると、勢いよく消しゴムを動かした。白一色に戻ったそれを再び立て掛け、背筋を伸ばして鉛筆を手に取る。

 そのまま、突き動かされるように素早く鉛筆を動かした。勢いよく鉛筆を走らせ続け、時々眉根を寄せて「こうじゃない」と言っては、消しゴムを手にとって修正を加える。その様子は、記憶にある映像が消えてしまわない内に、と焦っているようでもあった。

 声、熱気。土の匂い、風――……彼方は、それだけを思い返し感じながら鉛筆を動かせた。冷房機の風よりも、窓から吹き込む夏風のほうが涼しいなと、らしくない事を思いながら額に浮かび始めた汗を拭う。

 黒一本で強弱をつけて表現する。

 ソレを描こうと思った時から、彼方はそう決めていた。続いて筆箱から沢山の種類の鉛筆を取り出すと、左手に数本持ちながら右手で描き上げていく。しばらくもしないうちに手はどんどん黒くなり、鉛筆の黒だけで描かれた絵が段々と浮かび上がってきた。