スケッチブックの新しいページを開いて、気ままに鉛筆を走らせた。こちらの作業は邪魔する気がないようで、恵が半分の窓を閉めて写真の選別作業に入る。

 冷気と外の熱気が入り混じった室内には、お互いの作業音だけがあった。ぼんやりと絵を描く向かいで、真剣な表情をした恵が、テーブルに広げた沢山の写真と睨み合っていた。

 どのくらい経った頃だろうか。運動部が準備を始める声や物音が聞こえ出して、それが練習音に変わった。わぁっと熱気ある歓声が窓から流れてきて、彼女が美術室の時計を見上げた。

「じゃッ、ちょっと行ってくる!」

 そう唐突に言い放ったかと思うと、恵がカメラを首にさげて教室を飛び出していった。彼方が「別に僕に許可を取るまでもなく」と言い終わらないうちに、嵐のように教室からいなくなってしまう。

 元の一人だ。彼方はそう思いながら、しばし自分が鉛筆を走らせる音を聞いていた。

 不意に、窓の外でわッと一際大きな歓声が上がり、描き続けていた手が止まった。いつもは閉めているから聞こえてこないでいる男子生徒達の、続く声が耳に入ってきた。