彼方は、とくに興味もなく恵の話を聞いていた。彼女が口にした『秋山先生』とは、科学の授業の先生の事だろう。恐らくは、写真部の顧問なのかなとぼんやりと考えながら荷物を運ぶ。

「悪いと思っている割には、君は随分と楽しそうでもあるけどね」

 描くための道具をセッティングしながら言うと、恵が可愛らしいとは呼べない笑みを浮かべて「にしししし、ばれたかッ」と明るい声を出した。

「すぐに仮部室が見つかるか分からないけど、まっ、しばらくお世話になるからよろしく!」
「勝手にすればいい」

 彼方がそう答えると、許可は取ったと言わんばかりに彼女が動き出した。

 まずは椅子を引っ張ってきて、続いてキャンバスの向かい側に六個の机を並べて大きなテーブルを作る。それから、仕上げに茶色い箱を持ち上げて大テーブルの上に置いた。

「よいしょッ」

 置いた際の重々しい音と、恵の声が重なった。その箱がかなり重たいものである事を察した彼方は、何が入っているのか尋ねる必要も間もなかった。箱の隙間から数枚写真がこぼれ落ちたのが見えて、「なるほど」と納得しながら自分の椅子に座った。