しばらく恵を見つめていた。それでも、やっぱり彼女の笑った顔も姿も暖かさも、なぜだか白く霞んでよく見えないようだった。それを少しだけ、残念に思っている自分がいた。

「そういうあなたは、次の部活動発表会、どうするの?」

 恵が窓際から椅子へと歩き出しながら、そう問い返してきた。

 彼方は目そらしながら「さぁね」と短く言葉を返した。何故か話題を変えたくなって、開きっぱなしの窓をちらりと見やって眉根を寄せてやった。

「締めてくれよ」

 そうぶっきらぼうに投げ掛けたら、恵みが、にしししし、と面白そうに笑った。

「開けている方がいいよ。こっちのほうが新鮮で、居心地がいいもの」

 そう言って椅子に座ると、どこか満足そうにパンフレットへと目を落とした。

「そういうものかい」
「そういうものなの」

 何気なしに問うと、彼女はそう答えて陽気に鼻歌をうたい始める。

 彼方は、少し長めの前髪が風で揺れるのを鬱陶しく感じながら、筆をキャンバスへと向けた。強い冷気が半分窓の外へと逃げ出して、外の賑やかさがやって来ている。それなのに、どうしてか初めて美術室に踏み入った放課後、眉根を寄せて窓を閉め切った時のような感覚はない。