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 翌日の土曜日、恵は午前中にやって来た。

 絵を描き始めてまだ一時間ちょいだぞ。彼方が怪訝そうに顔を上げると、彼女は彼とは正反対の嬉しそうな顔をして「見て!」と唐突に言ってきた。

「写真集をねッ、作ろうと思って!」
「最高潮にテンションの高いところ悪いけれど、だから、なんで僕のところへ来るのさ」

 彼女は満面の笑顔で、その言葉を無視してパンフレットを突き付ける。

 いつものように無視しようとした彼方は、目立つ広告のように『自費出版』と印字された字が飛び込んできて、思わず色を付けていた筆を止めた。彼女が両手で広げて見せてきたのは、出版会社のパンフレットだった。

「君、わざわざそこまでして、本格的で立派な写真集を作るつもりなのかい」

 思わず嫌味っぽく言葉を突き返したが、恵はやっぱり笑顔だった。

「私が作ろうとしている初の写真集だもの!」
「そう堂々と言い切られてもね、前から言っているけど、僕は君の事なんて知らないよ。どうせ三年生になれば、写真部として卒業アルバムの担当になるだろうに、馬鹿みたいだ」