彼方がジロリと横目で見やると、恵があからさまに困った顔をして「どうかなぁ」と、男子生徒のような仕草で頭をかいた。

「私、難しい事はよく分からないんだけれど。そうね、やっぱり撮りたいと思うから、撮るのだと思うわ」

 言いながら、彼方にカメラを向けて前触れもなくシャッターを切った。

 フラッシュ設定がされていないカメラの、小さなシャッター音に彼が顔を顰める。彼女はそっとカメラを降ろして見下ろすと、自分で確認するようにこう続けた。

「やっぱり、こうして撮りたいと思った瞬間(とき)を、私は撮り続けると思うのよ」
「ふうん。そうかい」

 彼方は興味なく相槌を打ち、絵へと視線を戻した。擦れ違いざま視線を上げた恵は、そんな彼の横顔を見つめる。

「あなたも、きっと描きたいと思った時を、こうして描き続けるのね」
「さぁね。僕は、そんな難しい事はよく分からない」

 すると、恵はどこか可笑しそうに笑った。

「あなたって、やっぱり捻くれてる」
「負けず嫌いではあるらしい」

 今日で下描きは終わるだろう。彼方はそう思いながら、他人事のような口調で、一部認めるようにそう答えた。