好きだ、好きだと僕は泣いた

 どのくらいそうしていただうか。ふと、雨がぽつりぽつりと降り出した事に気付いて、ようやく重い腰を上げて縁側から移動した。

 窓を閉めて、大窓沿いのすぐそばのフローリングに腰を降ろした。桃色の包装紙と見終わった本を脇にどけて、なんの表記さえもない真っ白で薄い本を膝の上に置く。

 どこが裏で表なのか探してすぐ、手書きの小さな字があるのに気付いた。正方形の本の隅にひっそり、少し崩れた丸字で『私と彼』、『撮影者/宇津見恵』、『撮影協力/秋山先生と小野先生』と書かれていた。

 本当につい最近、彼女が書いたのだろう。ほとんど上下にぶれた字にそっと触れた時、彼方の手の指先はわずかに震えてしまっていた。

 深呼吸をしてから表紙を開いた。右のページには、キャンバスに筆を向けたまま、美術室の入り口のカメラを怪訝そうに見やる彼方の写真が載っていた。左側のページは真っ白で、そこにはぎこちなく歪んだ手書きの一文があった。


『あなたは面白いくらい捻くれ者だった』


 ドクドクと打つ心音で指先が震えそうになった。そのままページをめくってみると、続いて絵を描く彼方を正面から撮影した写真があった。また左の空白に、震える字で言葉が添えてある。