美術室には、午後の穏やかな時間が流れていた。

 冷房機の稼働音が小さく上がっているだけだ。過去最高気温を叩き出した炎天下の中、部活中の少年少女達の賑やかな声も、活気も熱も、防音ガラスの向こうでブツリと途切れている。

 まるで外の世界から切り離されたような熱もない空間だった。数年前に建て替えられたばかりの床は白く、授業が終わるたび片付けられる机と椅子が後ろにはあった。
 ぽっかりと開けた中央には、一人黙々と作業を続ける少年の姿があった。向かっているキャンバスの周りには、絵を描くための道具が置かれている。

 市立K中学校は、申請があればほとんどの部活動が認められた。他校と比べても課外活動が活発な特色があり、顧問と部員がいれば速やかに部室が提供される。ここ二年で新たに設立された部は四つあったが、その内、珍しくも教師から申請があって立ち上げられたものがあった。

 それが只一人の部員――江嶋彼方(かなた)が所属している美術部である。