敬人、敬人、と繰り返し呼ぶ声が聞こえる。幻だと思っていた。部屋には私しかいない。私に声の聞こえるようなところで敬人を呼ぶような人はいないのだ。

敬人、敬人。けれども確かに、声は聞こえる。敬人の恋人かな、と思ったりもした。私が敬人に未練を抱いているのを知って、生霊でも飛ばしているのかもしれないと。

敬人、敬人。うるさいなと思って布団の中で目を閉じる。敬人、敬人。楽しそうでいいわね、と妬ましく思ったとき、涙が出てきた。敬人、敬人、としつこく繰り返される。自分の声だと、ようやく気づいた。体の中で、ずっと敬人を呼んでいた。

 透明な石が埋め込まれた輪をぎゅっと握る。永遠の絆。大丈夫、大丈夫。敬人はそばにいる。敬人は、私の中にいる。嘘なんかじゃない。敬人と一緒にいた時間は本物だ。敬人に抱いている感情も本物。

 違う。だから悲しいんだ。だから、寂しい。嘘だったのなら全部諦められる。でもそうじゃない。全部全部、本当だった。

 息ができなくなる。敬人に会いたい。ぎゅっとしてほしい。いなくならないまま、大丈夫だよといってほしい。

 敬人、敬人——。