「違うんだ、レイン。カテリーナ…シルクレイド嬢は関係ない。俺の短慮で視野の狭さが原因なんだ。だから、公爵に俺はなれない」
「やだやだ。私は公爵夫人になって、今まで幸せじゃなかった分を取り戻すんだから」

 シルヴァンは力無く事実を述べた。その言葉に泣きじゃくるレイン。ふと思い出し、シルヴァンから離れた。ふらつく足取りでデイヴィットに綴る。

「デイヴィット様は私が好きなんですよね?私、デイヴィット様の奥さんになりますわ。ね?良いでしょう?」

狂気を孕んだ瞳でデイヴィットに微笑むレイン。その姿を見たシルヴァンは絶句した。

「生憎、ゆくゆくは国母たる王妃になる女性にはマナーも知識も必要になる。トラバルト嬢にはどちらも足りない。そんな女を好きになる筈がないだろう」

綴るレインをさっと払い除けるデイヴィット。更に綴ろうとするレインをトラバルト子爵は必死に抑えた。

「レイン、止めなさい。レインには皇太子妃なんて無理なんだよ。不敬罪だ、止めなさい」
「いやよ、私は愛されて当然なんだから!」
「レイン!」
「離して、私はデイヴィット様に……………っ!」



パァンと乾いた音が響いた。



「いい加減になさい。聞き分けのない子供ではないでしょう」

カテリーナがレインの前に立ち塞がった。痛んできた左頬を呆然としながら押さえるレイン。

「もうすぐ成年になるというのに、見苦しいですわ。恥を知りなさい」
「ぅ、ぁ、うあああああぁぁぁ…」

レインは泣き崩れる。国王はアッシュレイ公爵とトラバルト子爵に、今回の騒動の責任を追求し、それぞれの家門に命令を下した。

 最終的にあの話し合いの場で、無事カテリーナはシルヴァンとの婚約が解消された。アッシュレイ公爵は、フェルナンドとカテリーナの婚約を結ばせたいと申し入れてきた。

が、シルクレイド公爵はこれを笑顔で断った。カテリーナ自身もしばらくは婚約者を決めるつもりはなかったので、父親の采配に甘んじた。

アッシュレイ公爵家は嫡子シルヴァンを放逐したのち、次男フェルナンドを跡継ぎとして教育することになった。まだ幼いフェルナンドは突然消えた兄と増えた勉学に、一時は精神的に不安定さが垣間見えたが、今は落ち着いてきたそうだ。

一方レインには、前回(卒業式典)とは違い今回は不敬罪が適用されてしまった。トラバルト子爵夫婦から離され、修道院にて精神を鍛え直すようにと言われている。

トラバルト親子にとっては永遠の別れとなるだろう。夫妻が亡くなればトラバルト子爵家は断絶し、領地は王家直轄領となることも合わせて決定した。子の不始末の代償としては、大きすぎる代償を支払う形となってしまたようだ。

しかし、子を甘やかし学びの機会を失わせた結果があれ(・・) なのだから、自業自得となるのだろう。カテリーナは今回の騒動を深く胸に刻み、同じ過ちを犯さないように…と誓うのだった。