セリーナは久し振りによく眠れたようで、起き上がり大きく伸びをした。パメラのハーブティーにリンカのマッサージ。どちらも睡眠を深く良くする効果があり、身体も頭もすっきりしていた。二人に感謝をし、セリーナは本日も妃教育の為に登城する。





着いて早々国王に呼び出され、謁見の間へと向かう。中には呼び出した本人の国王を筆頭に王妃、婚約者であるヒューベルトと第二王子のフェリクス、ミリアリアにその父ホライズン侯爵がいた。更には父のサイフォンとシグルドが来ていた。そのことに違和感を覚えながらも礼をして、国王の言葉を待った。

「皆呼び出してすまぬ。しかし、確認せねばならぬ事態故、関係者に集まってもらった」

国王の言葉により低く頭を下げる一同。

「してセリーナよ。何故そなたは我が儘《・・・》を通してヒューベルトの婚約者になったのに、妃教育を受けぬのだ」

その言葉に身体が震え喉がカラカラに乾いたセリーナ。ちらりと視線をずらせば、真っ青な顔をしている王妃と父サイフォン。怒りからか顔を赤らめる兄シグルド。そして、ニヤリと厭らしい笑みを浮かべるヒューベルトとホライズン侯爵。ミリアリアとフェリクスは顔色や表情を変えずに立っていた。あとは宰相たる公爵家の者くらいだった。

一瞬頭に血が上ったセリーナだが、深く息を吸い込み状況を把握することに努めた。家族はこの話を耳にしていない。表情から紐解けば王妃も同じ。となると、残りは4人。無表情のミリアリアとフェリクスは怪しくもあるが、最も怪しいのはニヤついた顔が腹立たしいヒューベルトとホライズン侯爵の二択となる。

ヒューベルトはミリアリアと共に王城内でセリーナに見せ付けるようにイチャついているので除外する。………となれば、ホライズン侯爵がこの呼び出しの影の支配者とセリーナは推察した。であれば戦うのみ、と覚悟を決める。

「陛下、発言することをお許しいただけますでしょうか?」

覚悟を決めたセリーナは凛とした声で訊ねた。

「許そう」

ホライズン侯爵は止めたかったようだが、国王はセリーナの言い訳を聞いてやろうと発言を許可した。

「ありがとうございます。では陛下、私とヒューベルト殿下の婚約ですが…私が望んだものではありません。冷静にお考えください。アドリアーナ家は伯爵位《・・・》です。私の我が儘で王族の方と婚約できる筈がありません。それに私には婚約時から護衛を兼ねている諜報員が付いております。彼等からの報告は伺っておりますか?」

セリーナの問いに国王は顔を白くしていく。側に控える宰相に向き直り確認している。そして思い出したのだろう、ヒューベルトが婚約をねだったことも諜報機関の人間を護衛兼任で付けたことも全部。

「どなたが仰っていたのでしょうか?私が妃教育を受けていない、と」

国王の視線がホライズン侯爵に一瞬だけ移ったのをセリーナは見落とさなかった。

「先日は妃教育の後に王妃殿下にお茶へ招待頂きました。そちらも合わせてご確認ください」

セリーナがはっきり伝えると、国王は宰相に振り向き改めて事実確認をする。そして、口をパクパクとして宰相を見たが、呆れたような顔で首を振られるだけであった。

「あー、その誤解があったようだ。皆、解散してよい」

バツの悪そうな顔で国王は解散を宣言した。が、それを阻む者がいた。





「お待ちなさい!解散等私が許しません」