更に2年が経過し現在。ヒューベルトは十八歳、セリーナが十七歳となり、来年セリーナの学園卒業を以て二人は結婚することとなっていた。

セリーナは目の前にいる王妃の困惑した顔を見やり、過去に想いを馳せていたことを後悔した。

「申し訳ございません、王妃殿下」
「気にしなくて良いのよ」

謝罪するセリーナに王妃は柔らかい笑顔で応えた。(むしろ謝罪しなければならないのは陛下と私(わたしたち)なのだから)と暗い気持ちを覗かせたが、セリーナがそれに気付くことはなかった。その後他愛ない会話を交わし、セリーナは帰宅した。





 帰宅後、セリーナは自室のソファに沈み込むように座った。彼女付の侍女、パメラがてきぱきと湯浴みの準備をしながらハーブティーをセリーナに用意した。それを静かに飲み干し、漸くセリーナは一息つけた。

妃教育も王妃とのお茶も苦にはならない。なるとすれば、最近更にあからさまになったヒューベルトとミリアリアの逢瀬の方だ。学園内、社交の場と好き勝手してきた二人は、遂に王城内でまで人目を憚ることをしなくなったのだ。セリーナはますます頭痛が酷くなってきていた。

珍しくゆっくりと湯浴みの時間を取るセリーナ。パメラから話を聞いていた湯女のリンカは甘い催眠効果の高い香油を用い、セリーナを隅々まで丹念にマッサージを施し労った。それに気付いたセリーナはリンカの心遣いに感謝し、甘えることにするのだった。








 黒い猫がいた。その猫が問う。

【次の依頼者は貴方?願いは何かしら?】
「時間を巻き戻したい。10年前に」

依頼者の要望を聞き終えた猫は言った。【残念ね。貴方の願いは叶えられない】と。

「何故だ?」
【もっと強い願いを持つ者がいるの】
「誰だ!」
【依頼者はトップシークレットなの。信頼が一番だからね】

声を荒げる依頼者に背を向けて猫は歩き出した。

「ま、待て………っ!」

猫を捕らえようとした依頼者は、『はいは~い、そこまでですよ』と言いながら、やたら煌びやかに着飾った男に制止された。振り解こうにも振り解けない煌びやかな男に、依頼者は苛つきを抑えきれず怒鳴り散らしていた。

煌びやかな男―――キラは、にこにこと笑っていたが依頼者の罵声が止んだと同時に真顔になった。

『うちのご主人に手を出そうとするヤツは必ず始末する。肝に銘じておけ』

依頼者は急に雰囲気の変わったキラに怯え、何度も何度も首を縦に振った。おちゃらけた雰囲気のキラの威嚇は余程怖かったのだろう。依頼者の肉体が目覚めたようで、消えていった。

『ちっ!舐めた真似しやがって』

悪態をついたキラは周りを見回すが、既に黒猫―――リリーの姿はなかった。騒動の間に本物の(・・・)依頼者の元へ行ってしまったようだ。

『信頼されてて嬉しいやら悲しいやら』

キラはガックリと肩を落とし、本来の任務に就くべくのそのそと移動を始めるのだった。