更に一週間程経過した穏やかな朝。カテリーナは黄色のドレスを見に纏い、ツァボライトの装飾品を付けて椅子に座って待っていた。まずは玉座で国王陛下と王妃殿下、そして集まった名家の方々の前で婚約の誓いを立てる。その後王族専用の馬車で街中を走り、国民にお披露目する手筈となっていた。
「カテリーナ」
名を呼ばれ扉の方へ向く。
「お父様!お母様!」
「立ち上がらなくていい…折角準備が終わったのに、着衣が乱れたら申し訳ない」
父ランドロフと母クレアがカテリーナの元に来てくれた。ランドロフは立ち上がろうとする愛娘に、晴れ姿が崩れることを気にして立たなくていいと伝えた。その父娘 のやりとりをクレアが笑ってみている。
「ソルベは?」
カテリーナは来ていない家族の名前を出す。すると両親は肩を竦めた。
「王宮の警護をするそうだよ」
「こんな日まで…」
「あの子は真面目だから。私用で任務を放棄するなんて出来ないのよ」
クレアは笑っていた。ランドロフは不本意そうな顔をしているが。ソルベはカテリーナの弟で次期公爵になるため、今は王宮で働きながら学校に通っている。姉の婚約式の日まで職務を優先させる程勤勉で、カテリーナの―――公爵家の自慢の息子だった。
「ソルベらしい」
カテリーナは笑った。控え室のドアがノックされる。「どうぞ」と声を掛けると、デイヴィットが入ってきた。
「殿下、本日は…」
「シルクレイド公爵、今日はそういうのはなしにしよう」
「は、かしこまりました」
以前合わせていたカテリーナ色の衣装にタイピンを付けたデイヴィット。二人で並べばとても絵になる。ランドロフはツンとする鼻に気づかぬふりをして、二人を見ていた。クレアはそんな夫に寄り添い、同じように二人を見詰めた。
「皇太子殿下、カテリーナ様、開始のお時間にございます」
王宮に遣えるメイドが時間を伝えに来た。
「もうそんな時間か…。皇太子殿下、娘をよろしくお願いします」
「はい」
「カテリーナ、幸せにね」
「お母様、ありがとうございます」
ランドロフとクレアは各々話し掛け、先に控え室を後にした。それを見届けデイヴィットとカテリーナは寄り添って控え室を出る。無事婚約の誓いを立て、国民にお披露目パレードを終わらせるのだった。