震えた娘の声と、鼻をすする音。その向こうの沢山の人々の歓喜が、受話器越しに聞こえていた。

 状況を察した男が、「やったぁ!」と私を高く抱え上げた。私も嬉しくなって、やったな娘よ、と高らかに叫んだ。女が受話器を持ったまま涙し「よかったわね、おめでとうッ」と言った。


 こうして、伊藤家の娘の受験は、無事に終わった。

 娘は晴れやかな顔で、高校の卒業式を迎えた。

 私は留守番だったので、卒業式に行った男と女に後日、式の様子が写された写真を見せてもらった。そこには、卒業を祝う私も含めた立派な写真もあった。

 学校とやらと動物が入れないため、私は留守番を頼まれて娘の高校には行けなかった。しかし、帰って来た彼らにそのまま抱えられ、車へと乗せられて、ある場所に連れて行かれたのだ。

 訳が分からぬまま連れて来られたのは、ペット可と書かれた写真館であった。

 娘の卒業祝いに、家族全員で記念写真を撮ろうというのだ。そのためだけに、彼らは卒業式を終えた足で、友人や知人に「予定があるから!」とそのまま学校を出て、家に直帰したらしい。

 中央の椅子に腰かける制服姿の娘のそばに、男と女、そして、その娘の膝の上に私が腰を下ろした。この家族の一員になれた事に、その時、改めて強い誇りが込み上げたのは、言うまでもないだろう。

 本当に嬉しかった。

 卒業した娘に、おめでとうと伝えたかった。

 私の言葉が、人間には言葉として伝わらないとは、もうこの歳になって分かってもいた。だから私は、精一杯可愛らしく小首を傾げて、記念写真にその姿を残したのだった。