浅倉と彼女は家が近所で、幼稚園から付き合いのある幼馴染だった。彼の友人達は、異性の友情は認めないと言い張ったが、共働きをしていた家族同士で親交のあった浅倉にとって、彼女は数少ない大切な親友の一人だったのだ。

 だから結婚する事はないよと、大学時代にもよく口にしていた。

 そう思い出しながら、朝倉はその台詞をもう一度口にした。横顔に視線を感じながら、グラスの中で氷が溶けて音を立てる様子を見つめて、言葉を続ける。

「彼女は妹みたいに可愛くて、とても大切で――……可愛くて、愛しくて、仕方がない子なんだよ」
「んなの、あの時のお前の顔見れば、誰でも分かるさ」

 多田は不満を覚えるような顔をそらすと、新しいグラスを手に取って、思い出すような口調でこう続けた。

「式場でさ、彼女が出て来た時のお前、まるで父親か兄貴みたいに心底幸せそうに微笑んでいたんだぜ。お前って顔が綺麗系で、笑っても作り物じみて当たり障りない感じだったからさ、あの時は俺達もびっくりした。…………お前は本当に、彼女の事が大切なんだなって嫌でも理解しちまって、切なくなっちまった」

 朝倉は、問うような視線を向けた。すると多田が、余計な言葉は要らないだろうとばかりに、どこか頼りない空元気な笑顔を返してくる。

 朝倉は長い付き合いから、彼が飲み込んだ言葉を察した。いつも陽気な多田の珍しくも弱々しい微笑みに、自分の心の全てが見透かされている事を知った。


 本当に、彼女が大事だったんだ。

 そう口からこぼれ掛けた言葉は、喉の奥が震えて声にならなかった。


 すると、多田が不意に、スーツの内ポケットを探り、そこから厚みのある封筒を取り出して浅倉の方へ寄越した。