鞄にあるデジタルカメラには、今日だけで数十枚の写真が新たに収められていた。それを思い返すたび、浅倉の眼差しは、最高の晴れ舞台を迎えた彼女を出迎えた時と同じように、自然と柔らかくなる。

 それを横目に見た多田が、浅倉の回想を容易に察したように「ちぇっ」と言い、若干面白くなさそうに眉根を寄せた。

「幸せそうで何よりだよ」

 多田は語尾に溜息をこぼした。しかし、数秒もしないうちに苦笑いをこぼすと、たまらず浅倉の横顔に顔を向けてこう続けた。


「――でもさ、実を言うと俺、彼女はお前と結婚するものだと思っていたんだ。お前だったら仕方ないかなって、俺、ずっとそう思っていたんだぜ」


 それを聞いた浅倉は、グラスに入っている酒を眺めたまま、静かに微笑した。

「そんな事はないよ」

 マドンナと言われた彼女は、今日、結婚式を上げた。かつて浅倉や多田と同じく、共に大学時代を過ごした少し気弱で心根の優しい、友人達の中でも涙腺の緩い男と晴れて夫婦になった。

 お互いが一目惚れだったにも関わらず、二人はどちらも奥手だったから、付き合うまでには二年以上の歳月がかかった。大学三年生の頃、ようやく想いを伝えあったものの、手を繋ぐので精一杯だった初々しい恋人時代を送っていた。

 それを浅倉は、今でも鮮明に覚えている。どちらも彼に相談してくるものだから、二人が付き合い始めても、結局のところ卒業するまで忙しい日々だった。

「だから言っただろう。彼女は僕にとって、家族と同じぐらい大事で、大切な親友なんだ」