♢壮人の恋の理解者
同級生のカルトが彼氏だとわかっているのに横取りすることもできない。穏便に過ごすために、壮人は二人が別れるタイミングを狙っていた。でも、二人は別れることなく、交際は続き、大学が結と壮人は別になる。つまり、人生初に結と物理的に距離ができてしまう。用事がないのに会う理由もない。だから、諦めるしかないと自暴自棄になってしまっていたと年下のヨージに正直に話していた。
まさかこんなに自分が正直に恋愛話を年下の後輩に話すなんて思ってもいなかった。でも、ヨージは聞き上手ですごくいいアドバイスをしてくれる。だからだろうか、気づいたら一番近い存在となっていた。
「カッコ悪いからさ、ずっと黙っていたんだ。執着しすぎだろ。キモイって思われるのがオチだ」
ため息をつきながら、空を見上げる。
「執着できるって、ある意味凄いことだと思うんだよね。人間は執着すると実力以上の能力を発揮するっていうデータもあるしね」
冷静な褒め方はヨージならではだ。
「ヨージは好きな女とかいないの?」
「いないよ」
即答したヨージは年頃であり、本当は恋愛ネタで照れるかと思ったが、その表情は冷めていた。モテるであろうイケメン秀才が好きな女もいない事実に壮人は少しばかり驚く。
「好きだった人は?」
「いないんだ。俺、人を愛するのが苦手なんだと思う」
せつない顔をして、見上げるヨージ。
「だから、ソート兄さんはかっこいいと思えるんだ。俺にはないものをたくさんもってるじゃん」
壮人が持っていないものを全部持っているようなヨージがかっこいいとか俺にないものをもっていると絶賛する。少しばかり照れる。でも、一度も好きになった人がいないのだろうか? いささか不思議だったが、天才であり、能力が高いヨージという人間は全てが簡単に手に入るから誰かを好きになる必要もないのかもしれないと思う。
「幼稚園から好きだった彼女に一度も好きだというアプローチはしなかったの? 俺がいい思い出作ってあげるよ」
ヨージは予想以上に壮人の恋愛話に大変興味を示した。
「基本は、何も言わなかったけど……高校に入ってから、こんな時間がずっとつづけばいい的なことを言ったかな……」
「その言葉に対して彼女は嫌がらなかったんだ? じゃあ、オカルト研究会で廃病院に行ってみなよ。そこで物理的にお互いの距離を近づける作戦立ててあげるからさ。廃墟でラブ作戦だよ」
ヨージは意外にも食いついてきた。
「高校時代の青春の一幕が廃病院なんて終わってるな」
そんな突っ込みを自分自身に入れる。
ヨージの助言通りに作戦を遂行する。全て彼の作戦通りに事は運んだ。今まで生きてきた期間で、一番好きな人と物理的にも心の距離も一番が近くなった時間を思い出す。廃病院という異質で不気味な空間だったが、その少しの時間だけは心が満たされたように思う。
世界で一番大好きな女性が暗闇の中で壮人だけを頼る。その感覚が今でも忘れられない。あの時握った手のぬくもりもぶつかる華奢な体も今でも体に感覚がある。あの人生唯一無二の幸せな時間を思い出す。彼女が縋るような目で頼ってきたあの時間は間違いなくカルトのものではなかったと思えた。あの時間は永遠の中の一瞬かもしれない。しかしながら、その時間、立花結は真崎壮人のものだったと自負していた。
その後、成功話をヨージに報告した。
「ありがとう。ヨージのおかげでひと夏の甘い思い出ができたよ」
「彼女、ソート兄さんのこと好きになったと思うよ。反応はどうだった?」
照れる壮人を見上げるヨージはとても楽しそうな顔をする。
「嫌がってはいなかったと思う。結は怖がりで、チョキグーで二人ペアになってさ。俺しか隣にいなかったし、自然と手をつないでいた。4人でオカルト研究会をやっていた時に廃病院で一度二人きりでたたずんでいてさ。しばらく、古びた長椅子に座って体を支え合いながらただ無になっていたんだ」
「へぇー、その心理作戦は使えるね。この世界で心理的に彼女が一人ぼっちになれば、きっとソート兄さんのことを頼ってくれるよ。今、考えているアプリがあるんだ。きっと両思いにしてあげるよ、兄さん」
何かを思って、にやっと笑ったカルトはアプリの話を持ちだす。
「呪いの手紙っていうのが出回っているの知っている?」
「噂程度には聞いたことはあるよ。そういえば、ヨージも霊感持ってるんだっけ?」
「俺は霊感と呪術の力を生まれつきもっている。今、人々に必要なのは呪術の力で人を幸せにすることだと思うんだ」
何かを見据えた様子のヨージは力強く言葉を述べる。霊感がある人はたまにいるが呪術の力はごく稀だ。基本的に遺伝だと聞いていたので、そういった家系が他にも存在しているということが非常に珍しいと壮人は感じていた。
ヨージに親近感を更に抱く壮人は語り掛ける。
「呪術師ってのは、遺伝と才能だってきいたことがあるよ。今まで会ったことがなかったから、すごく嬉しいよ。呪術師っていうのは呪われた人を救うか呪う手伝いをすることだろ。まぁ、大昔の先祖がそんな仕事をして今の親父の会社の基盤を作ったっていうのは聞いたことがあるけど。呪術師っていうのは結構なお金にはなるらしいね。でも、呪術で人を幸せにできるなんていう発想はなかったな」
新たな発想と斬新な視点を持つヨージはやはり面白いと壮人は思っていた。固定概念とか既存の事例を一蹴してくれる存在は貴重だった。
壮人の周囲は固定概念にとらわれていて、マニュアル通りの人間が多かった。実際進学校では将来を約束される道を選ぶものの比率は圧倒的に多い。周囲の親も生徒も既存の概念にとらわれていて、ここの高校からこの大学に入るのが普通だとかいい将来ばかりを押し付けている印象が強かった。だから、正直嫌いだった。そんな学校も、そんな人間も。
「マイナスなイメージがある呪いだけどさ、呪うことで幸せになる手伝いが呪術師にこそできるだろうと思うんだ」
「呪うことで幸せ?」
正反対の言葉に戸惑う壮人。
「そうさ、呪うことでいらない人を消す。一番シンプルでしょ。それで幸せになる人って多いんだよ」
にこにこしながらヨージは提案してくる。とても、消す、つまり殺すということを暗に発している人間とは思えない笑顔だった。語り掛けるヨージの瞳は輝きが増す。
「たとえば、いじめられている人って自殺することが多いでしょ? その相手を殺せばその人は幸せになると思わない? または、自殺志願者の場合だけど、ネット検索結果によるとまずは楽に死ねる方法を探すことが多いんだよね。つまり楽に死ねたり殺せるアプリがあったら喜ぶ人がいるでしょ」
「以前から危ないヤツだとは思っていたけど、発想がいかにもおまえらしいな」
同意する壮人。たしかに、ヨージの言うことは正論だ。でも、そんな間違えたことを提案することは普通ならば、この世の中で叩かれる。
でも、呪術師家系だということや規定概念に囚われたくないと感じていた壮人にとっては妙案だと感じる案件だった。
「呪いのアプリを作ってソート兄さんの恋を成就させてあげるよ。だから一緒に作ろう。その代わり秘密だよ。ソート兄さんが結さんと結婚するために必要だと思うんだ」
「でも、それと彼女との両思いは別物だろ」
片思いの恋愛の話と呪いのアプリは違うと思う壮人。
「そうでもないよ。例えば、廃病院で二人きりだったら彼女は兄さんにしかすがれない。だから、いい感じの時間を過ごせたんでしょ。現実世界全体を廃病院のような精神的な密室状態にすれば、彼女はソート兄さんのことを選ぶってことだよ」
時々鋭い眼光を向けるヨージは普通の高校生とは思えない大人びた瞳だった。そして、その先に見ているものは何かは見当もつかないような気がしていた。飽きさせない本物に出会えたような気がして面白い話だと壮人は話に乗ることにした。
ヨージは少しばかりの霊感と言っていたが、常人とは違う強い能力と頭脳があることに壮人は気づいていた。とても珍しい能力だ。あまりそういう家系が存在していることを壮人は聞いたことがなかった。突然変異で能力者が生まれることがあるのだろうか。でも、同じ能力を持つ知的好奇心を揺さぶってくれる同志を得た壮人は今まで生きてきた中で一番幸せだと思えた。そして、かけがえのない大事な友達であり仲間だと思えた。
日々の積み重ねと信頼関係で、二人の絆は深まっていた。
そして、時は来た。何年もかけて天才と秀才が一緒に創造し完成したアプリを使う日が――。
何年もかけて完璧になった呪いのアプリをあえて結にインストールする方法を取った。実際は呪い主は幻人による遠隔インストールだったが、結は疑うことなくただ恐怖におびえ、入籍と引き換えに譲渡に走る。でも、たしかにそこに愛は存在していた。ずっとずっと秘めた気持ちが、確かに存在していた――。
♢自殺志願者たち
自殺志願者たちが一番食いついたのが呪いのアプリだ。苦しまずに楽に死ぬことができる。それがキャッチフレーズのようにネット上に飛び交った。
主な書き込みは以下のようなものが多い。
『呪いのアプリ譲ってください』
『呪いのアプリ譲ります。料金は〇万円です』
『呪いのアプリで一緒に死にませんか?』
『一番楽に死ぬ方法あります』
『呪われて死ぬには連絡先の交換が必要です。交換してください』
個人情報を売るために連絡先を交換しようとする悪徳業者も現れた。社会現象となり、呪いのアプリの名前を知らない人はいないというくらい日本全国民へと広がった。新聞やニュースにも取り上げられ、マスコミを介して、その存在は本物だろうという確証すら感じられていた。しかし、誰が何のために作ったのかは、誰もたどり着くことができなかった。
本当に呪いの子どもがいて、怨念から生み出されたのだろう。そんな想像が広がっていた。あるはずはない見えない呪いというものを人々は心のどこかで信じていた。みんながそう思い込んでいたように思う。声に出さなくともきっと呪いは存在すると。不幸になるのは呪いが関係しているのかもしれないと他者のせいにする心理もそこにある。でも、科学で解明されないことを絶対に存在すると言う事は大人になると誰もがスルーする。確信が持てないからだ。そして、忙しい大人はそんなことに時間を使えなくなるからだ。
自殺志願者はこの世が嫌いで人が嫌いだ。中にはかまってほしいだけの人もいるが、実際に呪いのアプリをインストールはしない。かまってほしいだけであれば、ただ誰かと繋がりたい。それだけにとどまる。しかし、本気の人の目は違う。
しかし、死に方は少しでもきれいで楽な方がいいのが人間の心理だ。高層ビルから飛び降りて、地べたに落ちるとか、車や電車に轢かれる場合はきれいな形で死ねない。できれば汚い死は選びたくはない。なぜならば、自分の存在がきたない形で終了してしまうからだ。それに、痛みや恐怖が伴うことは最小限にとどめたいのが人間の心理だからだ。
呪いのアプリならば、きれいな状態で痛いこともなく、一瞬で死ぬことができる。恐怖も最小限で死ぬことができる。高層ビルから飛び降りるほどの勇気もいらない。死ぬという敷居が低いのがアプリの一番の特徴だ。
ただ、14日待つだけでいい。楽に死ぬことができる。それは、自殺志願者の光になる。しかし、アプリは簡単には入手できない。誰かに呪われなければいけないし、呪う相手も自分が死ぬかもしれないリスクを伴う。実際、それほどまだアプリ自体は、一般人に出回ってはいなかった。しかし、死んだ者が書き残したネット上の文章に呪いのアプリや呪いの子どもについて書かれていた。そういった不可思議な事実が都市伝説のように日本全国に出回った。
『呪いのアプリに呪われて困っています。譲渡に応じていただける方、連絡ください』
そういった書き込みがネット上にあった。譲渡という制度が成り立つのだろうかと自殺志願者はハイエナのように群がった。
実際に譲渡を成立させた人に週刊誌がインタビューした記事があった。週刊誌には仮名で顔は出していなかったが、たしかに証言していた。呪いのアプリを自殺志願者に譲り、自分は今でも生きている。そして、志願者は14日後に死んだ。それが本当ならば、譲渡制度が成り立つらしい。
事件真相の調査のため、カルトは週刊誌の紹介で、実際に呪いのアプリを勝手にインストールされてしまった被害者に会う。ごく普通の20代の男性だったが、その証言はとても嘘をついているとは思えず、カメラで撮影したアプリのアイコンや実際に自殺志願者とのやり取りのメールを見せてくれた。実際に譲渡した人は14日後に死んだという。死因はただ心臓が止まったらしい。その者は体の病気はなく、呪いのせいだとしか思えないと言っていた。
今の時代いくらでも譲渡希望者がいるから、アプリで呪われてしまったら、自殺志願者に譲渡することが一番だという。証言者は呪いの子どもについても、実に生々しい会話の様子についても覚えていた。呪いの子どもについての証言も実際に見たカルトと同じ見た目であり、話し方もそのものだった。嘘はついていないだろう。
「しかし、譲渡した場合、譲渡された人は誰の名前を言えばいいのだろう?」
「その場合は、呪いの権利が移行すると聞いたよ」
弱弱しい見た目の男性がうつむき加減で答える。もしかしたら、呪われた経験が人間不信になってしまうきっかけになってしまったのかもしれない。
「ということは、呪い主が変わって、あなたが呪い主になるということか?」
「そうなります。賭けですよね。呪い主を知ったうえでの譲渡だから、相手が自分の名前を言えば、その場で死んじゃうし。でも、このままじゃ14日で死んでしまいます。だからこそ、切実に死をねがっているものを精査した上で、譲渡しました」
目を合わせずに下を向く。きっと彼の性格はもう人間不信となってしまったのだろう。心のシャッターは閉まったまま開きそうにもない。
「でも、念のため本名は教えませんでした。でも、連絡先を交換したら、譲渡はできたんです。もうアプリはアンインストールされていました」
貧乏ゆすりと言われる足の動きを無意識に行う男性。小刻みに揺れる。
「元々の呪い主はまだわかっていないんですか?」
「はい。だから、携帯電話を解約して、新しい番号に変えました。基本的に連絡先には何も入れません。手書きの手帳に必要な電話番号は書いて持ち歩いてます。怖いんです。信じていた予想だもしない誰かがまた呪ってくるかもしれない。もちろんまた譲渡すればいいかもしれない。でも、何度も恐怖とリスクがつきまとう」
彼のひ弱な手は震えていた。足も震えている。呪いの魔力は彼の中でずっと続くのかもしれない。誰かが送った呪いは違った形で彼の中に恐怖心を確実に植え込んでいた。
たしかに何度でも呪いのアプリを使って呪うものはいるだろう。しかし、呪いの子どもを呼び出す正式な方法はまだわかっていない。噂によれば、呪いの子どもを呼び出す方法があるらしい。
その方法は深夜12時14分に呪いの子どもを呼び出すことらしい。しかし、呼び出してしまうと呪い主として確実に死ぬリスクを背負ったまま呪わなければいけなくなる。そして、呪ってしまう相手を決めたら、その人が死んでしまう。だから、面白半分で呼び出すものはいない。本気の者だけが呪いの子どもを呼び出す――。
♢過激迷惑ユーチューバー
「こんな面白い情報があるんだけどさ」
ヨージが持ち出してきた動画だ。これは、少し前の動画で、今はもう再生できないように削除されているらしい。しかし、動画を保存していたヨージが自分のパソコンを見せてきた。
動画ユーチューバーの面白動画がバズったという情報だ。それは、実際に深夜12時14分に呪いの子どもを呼び出す儀式を実況中継するというものだった。呪われるのは死んでもいいという相方のユーチューバーだった。正直本気で死にたいというよりは、動画をバズらせたいとか、有名になりたいという思惑が感じられる。
迷惑系過激系ユーチューバーの二人組の映像だ。実際、今までも迷惑かつ過激な動画が話題となり、注目を浴びていた。でも、もっと有名になりたい、広告収入を得たい。それが、一線を越えて恐怖の世界へ足を踏み込むことになったきっかけなのだろう。
正直、たいていの都市伝説をやってみた系では何も起こらなかったことのほうが多い。危険度は極めて低いものが多い。しかし、呪いのアプリは確実に死人がでており、実在するのかと気になる者はたくさんいる。迷惑系過激系ユーチューバーは以前からそのことを宣伝していたので、実況を見ようと生放送を見るために彼らのチャンネル登録者数は短期間に劇的に増えた。思惑通りだと思われる。
ユーチューバーの二人は「過激組」というコンビで元々はお笑い芸人を目指していた。しかし、テレビに出るようなタレントには程遠く、結果的に動画を中心に活動を行っていた。思ったよりも動画広告収入が入ることが面白く、様々なやってみた系の動画や危ないと思われるケガをするような行為、他人に色々な意味で迷惑をかける行為もいとわない勇敢で馬鹿な精神を持っていた。バイトの傍らできるというのも彼らには魅力ある仕事となった。
人々は自分ができないことをやっている人にどこか興味を持つ。そして、見たいと思う好奇心が刺激される。沈めていた何かがうずくかのように噂に呼び寄せられる。実際に死人が多数出ているアプリをどうやって呼ぶのか。その動画を警察関係者をはじめ様々な人々が見ていた。この行為自体が警察で取り締まるような管轄でもなく、ただ見ているしかないというのが警察の本音でもあった。そして、彼らを通して、知りたいということもあった。
過激組はAとBというタレント名で活動していた。
「では、Aが呪いの子どもをよびだしまーす」
太ったほうの青年がAを名乗り、明るいジェスチャーで実況を始める。
「呪われる方は俺、Bのほうでーす」
痩せたほうの男がBと名乗る。Bは少し暗そうな雰囲気だが、この二人はかなり過激な精神の持ち主だ。
悲壮感など全くない。そう、ただ、目立って登録者を増やして金を得る。それしか彼らの頭にはなかった。
「色々調べたところ、実際に呼ぶには12時14分ぴったりに呪いの子どもを呼ぶ儀式があるっぽいです。まずは、呪いの掲示板を検索します。その掲示板は14分の1分間にしかネット上にありません。そこに、呪いの子どもと書き込みます」
「噂が本当なら、俺らどっちか死ぬな」
笑いながら二人は話す。ただ、面白がっているだけという彼らの本心が見える。多分、死なないんじゃないか。そんな風に思っていたのかもしれない。
「俺らは過激で勇敢な過激組!! 何にも怖くない」
二人そろってのいつもの合言葉だ。いつもならば、馬鹿な企画だが、今回はシリアスな雰囲気が漂う。書き込みには――
『楽しみ、やってみてほしい』
『やめとけ、死ぬぞ』
『マジでやばいって』
『すげー登録者数。呪いのアプリ効果(笑)』
そんな書き込みがどんどん重ねられる。ほんの数分のうちに登録者は何百人も増えていて、トレンド入りしている。
「13分になるので、そろそろ検索かけます」
「まだ、出てきませんね」
もう一度検索をかける。
「14分です」
「出るかな?」
視聴者たちはどうせ出ないだろうと思っている者が多かった。好奇心で見ている者が多く傍観する分にはタダなので、リアルタイムの視聴率は軒並み高かった。流行の本気ネタを仕込む者はたくさんいるが、自らの命をかけてまで実行する者はなかなかいない。
息を呑んで見守るコメントが多数書き込まれていた。すごい数だ。
「出てきました」
【呪いのアプリへようこそ】
真っ黒な画面に白い文字が浮かぶ。そして、自動的に扉からギギーッと音を立てて、呪いの子どもが出てくる。無表情で、まばたきをしない男の子。見開いたまあるい瞳と真っ赤な血染めのTシャツを着ていた。昭和感のある風貌は子どもだからこそ怖い。
「こんにちは。僕には名前がない。みんなには、呪いの子どもと呼ばれているよ」
呪いの子どもが話し始めた。
「パソコン越しに会話できますね」
実況は続く。
「俺、Aっていうんだけど」
「Aさんは呪う人の連絡先ってスマホに入ってる?」
「もちろん入ってます」
Bが少し小声で実況を続ける。
「今、Aが呪いの子どもと名乗るキャラと会話をしています」
「僕、呪いの子どもって言われているけど、本名はないから好きに呼んでね。今日は実況中のユーチューバーかな。それはかまわないけど、どっちかが死ぬよ」
抑揚のない話し方をする。
「本気なの? 相方なんでしょ? 呪い主になるということは、呪いをかけた相手が僕に呪い主の本名を言うと死んじゃうよ」
意外と丁寧な説明だ。
「わかってます」
「呪いたいのは?」
「ここにいるBを呪います」
「Bは14日後に死んじゃうよ。相方なんでしょ? いいの?」
再度確認する。
「本当に死ぬのか体験するのが俺たちのやり方なんだ。呪い君のことも一気に有名にしてあげるって」
呪い君と勝手に名付け、親しみを持った接し方をする。さすが度胸だけはある。
「Bに言っとくね。Bが死なないためにはアプリがインストールされたらAの本当の名前を僕に言えばAが代わりに死ぬよ。友達同士の友情が試されるね」
「友達っていうか俺たちは命張ってる同志だからさ」
Aは勇敢な様子を全国に中継する。大きな体で大きな勇気を見せつける。
「どちらかが14日後に死んじゃってもいいという確認だけするよ。OKならば、インストールされるけど」
呪いの子どもは案外丁寧な説明をする。
「もちろん、いいよ」
二人とも同意する。
「今、俺のスマホに呪いのアプリがインストールされました!!」
何かの祝いのように喜ぶB。
Aものぞき込む。
「本当だ、入りました!! 呪いのアプリです!!」
誇らしげに掲げる。スマホをみんなに見せる。まるで宝物でも入手したかのような嬉しさすら漂う。動画視聴者はどんどん増える。書き込みコメントもすごい反響だ。群がるハイエナはどこにでも存在する。
「呪われた人は14日以内に呪い主を特定してね。君のスマホの中の連絡先アドレスに入っている誰かが呪い主だよ。その中から3人まで選ぶことは君の権利だよ。呪い主が当たれば、呪いは解けるよ。でも、3人目を間違えたら、君はすぐに死ぬよ。呪い主は誰?」
呪いの子どもがインストールされ、カウントダウンが始まる。
「これからBが14日後に本当に死ぬか実験しまーす」
「呪いの子どもとの会話も実況するんで、みんなチャンネル登録してね」
お祭り騒ぎのようにネット上がざわつく。
しばらく毎日何度も実況を繰り返し、呪いの子どもとの会話はマスコミにも取り上げられた。実際は、本当に死ぬのか、ということに注目されていた。
この動画は大変バズり、大反響で一躍有名人になった。しかし、彼らはのちにどうなったかというと――
「Bだけが14日後に生き残ったんだ。Aは13日目に心臓が停止して急死した。絶対にBのせいだよね」
ヨージが悲しそうな顔をする。
「あれ? 呪い主はAだよな?」
カルトは問いかける。
ヨージは説明をする。
「呪いの子に呪い主の本当の名前を言えば、死ぬのはAってことだよ。つまり、相方をBは殺したんだ。計画的なものだったのか、怖くなって13日目に名前を告げたのかは不明だよ。でも、実際、Bの口座には大金が振り込まれていた。動画広告収入はBに入金され、一躍有名人となったが叩かれまくることになり、彼は今は動画活動は辞めたらしい」
一躍有名になった二人の末路は悲惨そのものだったらしい。
「じゃあBは今どうしているんだ?」
カルトが質問する。
「どうしているのかはわからない。顔出ししていたせいで、実生活で自宅を特定され、コンビの相方を殺したという中傷や嫌がらせが続いたらしいしね。まぁ、身から出たさびじゃない? 顔を変えて身近にいたりしてね。これで、呪い自体は本物だということがわかったね」
そんなことを面白そうに話すヨージはふとした一瞬だけ、どこか人と感性が違うような気がする。たまに彼の倫理観に違和感を感じるカルトだったが、今は大切な情報源でもある。
「素朴な疑問だが、呪いとITが同化するなんてことが普通あるんだろうか?」
カルトは神妙な顔をする。
「呪いなんてどんな形でもいつの時代でもあるんだしさ。藁人形がアプリになっただけっしょ?」
相変わらずノリが軽いのが秋沢葉次。こう見えて日本一難しいと言われる大学に主席合格だから、普通じゃないのは仕方がないのかもしれない。天才と言われる人はたいてい変人だ。
♢創造者を名乗る幻人
殺しをしたいけれど、法で裁かれたくはない。かと言って、完全犯罪を成し遂げる術はない。願望を持つ者があとを絶たない。この世界にアプリを仲介する人間が必要だった。そんな時に、需要があれば供給する者がいるわけで――供給者の元に連絡が入る。いつの時代もどんな時もお金で提供するという仲介役がいる。ネット上に仲介役は何人も現れたが、特に評判のサイトがあった。自称呪いのアプリを開発した創造主だという者が書き込みをしているサイトだった。
幻人(げんと)と名乗る人物のアカウントに連絡をすると、お金さえ払えば、会うことなく、アプリを入手できるらしい。特定の誰かにアプリを入れてくれるという親切な創造主だった。
それは、お互いに連絡先を知らなくても、つまり、双方の連絡先が入力されていなくても、いつのまにか相手に匿名で連絡先を入れて、相互に連絡先を共有することができるという事実。いつのまにか、なので、本人が気づくことは稀だ。よほど、連絡先が少ないとかいつもチェックをしていれば気づくことはあるだろう。でも、自分のスマホに入っている連絡先一覧をいつもこまめにチェックする者はほとんどいない。連絡先を知らない人をアプリ経由で呪うということが幻人によって可能となったのだ。呪いのアプリの概念が幻人の出現により、覆されてしまった。創造主だからできるという神技で、いつのまにか連絡先を入れてくれる。さらに、呪いのアプリもインストールしてくれる。創造主でなければできないのではないか、本物の創造主だと巷では噂されていた。
しかし、知らない誰かを呪い殺す者は実際はいない。つまり、どこかで恨みを持った人間が知り合いを殺したいという依頼が多い。たまに殺したい相手の連絡先と自分の連絡先を交換していない、または連絡先が変わってしまい、わからない。という場合に幻人を頼ってくることが多かった。ストーカーの極みの依頼も結構あると幻人は書いていた。
もし、それが本当ならば、幻人の存在は呪いのアプリの法則を覆すという現象を起こした。その人物が何らかの方法で、知らない相手に勝手に連絡先を入れてしまうという方法があるのならば、知っている人の中の誰かという法則が成り立たなくなる。知らない名前があることに気づいても、偽名なので、本名がわからなければ絶対に自分が死ぬことがない。アプリのリスクを冒すことなく殺人ができるというアプリとしての法則や方向性が全く変わってしまう。
幻人は創造主を名乗っているが、法則を変えられるのは開発した創造主だからなのかもしれない。創造主は罪を背負っており、罰を受けるのが正当なことだ。たくさんの人をアプリを通して殺しているという事実が立証されれば――いつか創造主を名乗る者を逮捕できると警察は意気込んでいた。
もしも、そのような遠隔殺人が本当に行えるならば、法律の刃は無駄になる。何の役にも立たない。立証できない事件に対して法律を変えることは容易ではない。しかし、そういった殺人方法が立証できれば、将来的に法律を変えることはできるだろう。当面、別な罪を与え幻人と依頼人を刑罰に処することも可能かもしれない。でも、今は幻人を捕らえるよりも意見をもらう存在として警察側は色々と幻人という者を調べていた。
アプリの噂が広まり、たいていは、自殺志願者か恨みがある者からの連絡が多い。それはなぜなのかというと――楽に実行できるから。己が死ぬのも、相手を殺す瞬間も手を汚さなくて済む。実質返り血を浴びることもなく、犯行現場に行くこともない。自分は何もしなくても勝手に死んでくれる。このアプリは、殺人にはうってつけだった。完全犯罪とはこのことなのかもしれない。たいていの依頼人は、フリーメールの連絡先と偽名のみ教えて、相手のスマホに幻人が偽名の連絡先と呪いのアプリを入れる。
幻人と名乗る人物は実に面白い実話をある小説サイトに載せていた。その話の内容は、実にリアルだった。多分本当のことであろうという人間の裏の顔、依頼人の本心が描かれていた。もちろん、登場人物は全て偽名だし、場所も特定できないようにしてある。しかし、幻人が描く話はとてもスリリングでたちまちサイトの人気小説となっていた。とはいっても、小説サイトは会員登録せず書き込める形式となっており、自由に誰でも書き込める様式となっていた。だからこそ、特定が難しく、さらに情報技術にたけているため、幻人の足取りを掴むことは不可能に近い状態だった。
呪いのアプリが話題となっている最中に開発者を名乗ったというのも相乗効果として、幻人の名を知らしめた。彼はとても緻密でわかりやすい文章を描く。その描写はとても丁寧かつ大胆で、読みやすいということが短期間で読者を増加させた。文章力があるというのはもちろんだが、かなり頭が切れるタイプだということを感じさせるスマートな印象を読者は持っていた。語り口調も親近感がある文章で、感情移入しやすいというものもあったように思う。しかし、彼の思想は非常に危険で極端な思想だった。内容に共感できないという者も多く、彼の持論に批判的な意見を持つ者も多かった。
しかし、カリスマ性故信者も多く、幻人の文章を読み、幻人に依頼をするという連鎖現象も起きていた。でも、幻人は謎に包まれており、彼の情報を得ることは警察の力をもってしても難しかった。登録アドレスはフリーメールであり、毎回変化する。海外経由となっているため所有者の情報を特定することが非常に困難だった。
その話が本当ならば、何かアプリのことがわかるのではないかと警察は幻人について極秘に調査を重ねていたことをカルトは呪いのアプリ捜査本部の部署移動後に知った。カルトは人物像を分析する。
幻人という人物はきっと自己顕示欲が強い人物なのではないだろうか。そうでなければ、依頼人について文章で表現をすることもないだろうし、小説サイトに小説形式で書くことをしないだろう。誰かに読んでほしい、こんな実話があるということを書いているが、現実にあった本当に怖い話はフィクションに比べてずっと重く、読者の心をなぶっていた。
予期せぬ裏切り、嫉妬心、狂気に満ちた沙汰、重く泥沼のような混沌とした実話は読者の心をいたぶり揺すった。揺れ動く人間の心は自分に置き換えて考えると身近なところに狂気が潜み、身近なところに殺意が生まれるという現実を突きつける。
実際に連絡を取り、お金を振り込むという手段を警察側で取る。もちろん、身分を伏せ、いち相談者としてだ。しかし、狂気や恨みが感じられないのか、警察だと察したのか幻人に無視されてしまう。幻人は面白いネタや心を揺さぶる内容ではないとアプリを提供しないと書いていた。つまり、人を救うためというわけではなく、依頼の内容のエモーショナル感が全ての基準らしい。
仕方なく、実際に、連絡を取ってお金を振り込んだ者に接触を計る。すると、呪いのアプリの振込先について、なぜか児童福祉施設宛てとなっていたらしい。もしかしたら、施設長やその関係者なのではないだろうかと警察は極秘に捜査をしたのだが、それらしき者はいなかった。実際に関係者のパソコンにも形跡はなかった。児童養護施設出身者が恩返しをしているのかもしれないと警察内では密かに囁かれていた。そんな時に、関係者説を否定する文章を幻人が出して来た。
小説サイトにて、幻人が児童福祉施設関係者ではないことを文章で否定したのだ。彼は、児童福祉施設に世話になったわけでもなく、関係者やその親族でもないと書かれていた。このタイミングで、否定するのは意外だった。まるで、警察内部を見ているかのようなタイミングの良さだったからだ。彼が記した文章は実に自らの利益を度外視したものだった。カルトは何かひっかかるものを感じていた。なぜこのタイミングに否定する文章を出してきたのだろう。
『ただ、偽善者でありたい。私は寄付をしている自殺他殺仲介者だ。振込先をあえて児童福祉施設にしているが、その土地にゆかりがあるわけでもないし、知り合いがいるわけでもない』
上記のように文章で表現した。偽善者でありたい自殺他殺仲介者と名乗る幻人は更に謎を呼び、ますます読者が増えた。偽善者と呼ばれたいと望むものはあまり聞いたことはない。己を偽善者と名乗る幻人はアプリを開発した張本人なのだろうか? もし、そうならば、なぜ、そんなことをしているのだろう? 法の間を掻い潜って人を殺しているとしたら――絶対に捕らえなければいけない。
偽善者であり自殺他殺仲介者と自称するが、いわば善と悪。全く相違なるもの同士。それを兼ね備えた作家である幻人は名前の如くまぼろしの人だ。
連絡を取ろうにもその小説サイトにはコメントを送る程度の機能しかない。しかし、本気で呪いのアプリを望む者には毎回違うアドレスを使って連絡を取ってくるらしい。
マスコミが連絡先を書き込んでも幻人は誰にも連絡を取ってこなかった。つまり、連絡が取れないのだった。警察はその者のIPアドレスを探る。しかし、全くその者のしっぽをつかむことはできなかった。
警察が調べた結果、ある20代男性のパソコンにつながったのだが、彼は全く幻人のことを知らないと言い、彼のパソコンからはそれらしき形跡がなかった。20代男性はフリーターで、読書は大嫌いと言い、彼のネット上の呟きには幻人のような鋭い面影はなかった。
つまり、ネット上で他人のスマホに個人情報を勝手に入れられる幻人のフェイクなのだろう。こればかりは、捜査をしても全く形跡をつかむことはできなかった。新手の犯罪が生まれてしまう。
インターネット上という見えない広い広い空間で殺人が行われる。これは新たな犯罪時代の幕開けでもあり、それに対応する能力はまだ追い付いていない状態だった。
「殺しの仲介者が本当に依頼された話」
小説サイトに幻人が投稿した話には興味深いものが多々ある。少しばかり紹介しよう。
♢ケース1 赤子にスマホを契約した母親
以下は、幻人の小説サイトのひとつのエピソードだ。
私が児童養護施設にお金を振り込むようになったきっかけであるエピソードを書こう。
赤子が生まれてしまった未婚の母親がいた。まだ18歳くらいで、高校にも通っていなかった。その母親の親も中卒で、ひとり親家庭のようだった。実家は貧乏で収入は少なかった。貧困は連鎖する。つまり、逃れられない負の連鎖だった。どうすればいい収入の仕事に就けるのか誰も周囲で助言できるものはいなかった。
貧しい状態で妊婦だったこともあり、働くことができなかった。彼女はお金に困窮していた。しかし、どうしても呪いのアプリを入れたいという相談があった、メールでのやりとりだったが、彼女は子どもを育てることが難しいと言っていた。
『いらない子どもなのに、生まれてしまった』と書いてあった。
『子どもの名義でスマホを購入した。子どものスマホに呪いのアプリを入れてほしい』というねがいだった。
いらない子ども、という非人道的であり、身勝手な言い分だが、私はアプリを提供してやった。母親はとても喜んだ。でも、呪いのアプリは両方にインストールした。赤子にインストールされれば、言葉を発することができないし、呪いの子どもとのコミュニケーションは不可能だ。14日後に死ぬことは明白かつ確実だ。
だから、フェイクアプリをインストールしておいたんだ。母親は子どもの死を14日間待ちわびていた。その間は、なんとか慣れない育児をして、今後の人生を殺人者というレッテルに縛られないように精一杯世話をしていたようだよ。フェイクな愛は私は割と好きなんだ。自分が犯罪者にならないように精一杯取り繕うなんて最高にかっこ悪くて人間らしいよね。
私はいつでも偽善者でありたいと思っている。それは、アプリを創造した理由だ。
呪いの子どもにはあえて、生まれたばかりの赤子に契約をするかのように仕込んでおいた。だから、本当は若い母親に呪いについて説明をしていたのだが、彼女は契約についての説明は赤子に言っているものだと思い、快諾していた。
「呪いの子、契約するよ。いらないから、呪い殺してね」
聖母のような微笑みだった。アプリの開発者は呪いの契約時や重要な話は、基本幻人が直接行う。普段の話は既に入っているアプリの機能で行うことが多い。しかし、最初は肝心だから、創造主が呪いの子として直接話しているんだ。
呪いの子どもは無表情で契約を交わす。
「契約成立」
若い女は、新しい出会いを期待しているようで毎日が楽しそうだった。もうすぐ、赤子から解放される。母親を子どもを殺すことなく辞められるって。マッチングアプリでチャットを通して次なる男を探しているようだった。馬鹿な女だよ。
その母親にお金を振り込むように指示をした。
なけなしのお金、10万円を振り込ませたんだ。
20万円も持っているようには思えなかったからね。
指示したのはある地域にある大きな児童養護施設の口座番号にした。親がいない子どもを育てる施設だった。親に捨てられたり、親が死んだり、親が何らかの事情で育てられない子どもが集う場所。
その施設にしたことには、理由があった。というのも、そこは特別な施設だと聞いていたからだ。国では表沙汰にしていないが、極秘に親のいない優秀な子どもを全国から集めているという話を聞いたからだ。
実際にそこの施設で育った子どもは、日本一偏差値の高い東王大学に入学する生徒は8割らしい。あとは、国立の芸術系大学や留学して海外の大学に進学する者しかいないと聞く。施設育ちで高校を出て就職するとか中卒で就職する子どもが皆無なんて不思議だと思わないか。でも、国が100%負担して国の未来を創るであろう優秀な人材を育てる子ども予算が極秘予算としてあるらしい。まぁ、結構噂になっているから知っている者は多いとは思うけれどね。
親がいない場合、大学に進学する子どもは全国的に見てとても低い。なぜならば、進学のためのお金を出す親がいないし、親がいなければ奨学金を得る必要がある。しかし、優秀でなければ奨学金は難しい。塾代や学費にお金を費やせない現実があるからだ。奨学金はのちに返還しなければいけないものが多い。返還義務が進学率を低めている背景にあるとも思える。
つまり、親がいないだけで、子どもは経済的な困窮者が多く、将来の選択肢が非常に狭くなってしまうのが現実だ。だからこそ、国は親のいない優秀な子どもを集めて、将来の国を作る者を育てていると聞いた。非常に面白い試みだと思ったよ。わくわくするよね。
もちろん、私はそこの施設に縁もゆかりもない。ただ、好奇心があった。親がいなくても子は育つというシステムを確立するために資金を提供できないかと思ったんだ。賢い人間を育てることは、この国の未来につながる。
生まれたばかりの赤子を殺そうとした母親は14日後に死んだよ。施設には連絡しておいた。母親が死んでいたので、その子どもはどこかしらの施設に預けられた。でも、残念ながら、のちに知能指数が高い子どもたちの集まる噂の施設には入れなかったと聞いたよ。まぁ、馬鹿な親の子どもは馬鹿なのかもしれないね。それが現実だ。
私は世の中が面白くなればいいと思い、このアプリを開発したんだ。このアプリを使いこなし、完全犯罪を遂げるものが現れたら色々な意味で面白いと思う。逆に、このアプリを使って人助けをすることだってできる。自分が幸せになることもできる。使い方次第で幸運のアプリになると思ったんだ。
♢ケース2 リベンジポルノの被害者
『リベンジポルノの被害にあっているので、呪いのアプリを入手したい。私、死にたいの』
幻人のサイトに連絡が入った。よくある話なんだけれど、ちょっと珍しいのは、少しばかりの傲慢な理由だったんだ。
最初は自殺をしたいと願う女子高校生の美沙(仮名)が呪いのアプリを入手したいという案件だった。その後、幼馴染の男子高校生の青空(仮名)が別件で依頼してきた。
『美沙がアプリの入手を申し入れてきたら、受け入れないでほしい』
基本、受け入れるのが常なんだけれど、何か別に抱えたものがあるのだろうと、双方の様子を見ていたんだ。もしかしたら、片思いの青空が美沙に対する純愛のために美沙を守るのかもしれないと思ったからだよ。少しばかり私に刺激と感動を与えるに値するだろうか。見極めようと思ったんだ。
呪いのアプリの仲介は私の匙加減ひとつ。つまり、私が面白いと感じたり、仲介したくなった場合に限るんだよ。それは、正しくない行いでも構わないと思っている。つまり、殺したいとか個人的な欲望での仲介も行うけれど、つまらない場合は仲介しない主義なんだ。趣味だからね。こちらの利益は人間ドラマを見せてもらうことでアプリの仲介をしているだけ。全くお金が入るわけでもなく、誰かのためでもない。
仲介の理由は私欲に尽きる。ただ偽善者でありたいと私は願い続けるだけだ。
ここに書くのは、私がなぜ仲介なんかしているかということを世間の皆様にお伝えしたいからだ。なぜならば、私は、ただ死にたいとか殺したいというだけでは仲介はしていない。ちゃんとした理由とアプリによってどんな結末を望むのかを聞いてから私は判断する。そのことだけはわかってほしい。
『なぜ美沙に渡してほしくないのか?』
そう尋ねると、青空は返信して来た。
『美沙は家庭教師の男に脅されている。だから、その家庭教師を殺してほしい。彼女には生きてほしいんだ』
まるで殺人仲介人にでも依頼しているかのような文章に戦慄を受けたよ。
実際殺人仲介人なので、納得したものの、意外と殺してほしいと正直にストレートに書く人は珍しいんだ。
だから、自殺をしたいと美沙は言ったのかと納得したよ。
本当でも嘘でもいい。面白い話が聞きたい、それだけなんだよ。
皆さんも小説や漫画を読むのは、本当ではない話だと知っていて読むよね。
まさか、本当にあった話じゃないから読まないなんてことはないはず。
私の感覚はそれと同じだよ。
『脅しというと?』
『最初は軽い気持ちで交際したんだ。でも、裸を動画に撮られていて、それをネタに今も揺すられている。相談されたのは俺だけだから親たちは知らない。美沙は死のうとしている』
『裸の姿をネタに脅されているということですね』
美沙の方に確認をする。
『私、脅されていて……私が死ぬか、彼を殺したいという衝動で悩んでいるんです。そうしないと、世界に裸を拡散するって言われてます。お願いします』
必死そうな文字だったけれど、本人に会っているわけでもないから、本当かどうかなんてわからない。どの程度苦しんでいるかなんてわからない。
美沙がどうなろうと私が知ったことではないが、とりあえず、家庭教師の連絡先を聞く。お互い連絡先は入っているので、通常通り呪いの子どもを発動させてほしいとのことだった。
私は、美沙を呪い主にして、呪いのアプリを家庭教師である大学生の山内に入れた。その男は、なぜ美沙が付き合ったのかわからないほど、容姿は醜かった。アプリを入れると私には相手の様子が見えるんだ。だから、はじめて山内という男を視覚的に知ったんだ。彼と話していると色々な話が聞けたよ。
山内は彼女がいたことがない地味で冴えない大学生だった。大学もFランクと言われるあまり有名ではない大学の学生だった。大人しそうな男が、女子高生を脅しているのか興味が出たんだ。そこで、呪いのアプリを一通り説明した後、個人的に聞いてみたんだ。呪いの子どもを通じてだけどね。
「君は、彼女はいないの?」
「彼女もいないし、バイトもクビになるし、最近いいことないと思ったら呪われたよ。俺なんかよりずっといい生活している人間を呪えばいいのにな」
脂ぎった髪の毛の艶が哀愁を漂わせていたよ。さらに、呪いの子どもを通して話してみたんだ。
「怨まれるような記憶もないの?」
「ないよ。女子と話したのも家庭教師を急遽辞める人が出たからって代理で教えた女子高生が最初で最後だな」
「家庭教師はもうやっていないの?」
「以前、家庭教師会に登録だけはしていたけれど、Fランクと言われる偏差値の低い大学卒業じゃあ依頼もなくて、忘れてたんだよ。そんな時に、急に有名な秀英大学の学生が辞めたから急遽代理で頼むと家庭教師会に頼まれたんだ。かわいい子だったけど、1回きりで断られちゃってね。やっぱり大学のネームバリューが悪いのかな」
私は察した。多分、この男は、はめられたのだろうと。
後に、美沙にも聞いてみたが、どうにも被害に遭ったという説明が二転三転することもあり、整合性が取れていなかった。この年頃特有の、なんかムカつく、生理的に無理ということが理由なのかもしれない。この年頃というよりは、人間特有のと言ったほうが正確かな。
「家庭教師に一回だけ来た山内ってどこが苦手だったとかある?」
呪いの子どもを通して聞いてみたよ。
「しいて言えば、口臭かな。あとは脂ぎった髪の毛と顔」
生理的に受け付けないっていうのはよくあることだけど、きっとそういうのが許せなかったのかもしれないね。
青空と美沙は実は密かに付き合っているらしく、スマホの履歴には愛を語るメッセージが飛び交っていたよ。こういう幸せな奴ってある意味ムカつくよね。リア充感満載でさ。
そういうの嫌いじゃないからね。依頼するほうも命の重さとか微塵も考えていないクズだし、そういう奴が呪いのアプリに群がる確率は非常に高い。
もちろん、ちゃんとした許せない感情をかかえた真剣な者もいるけれど、全てがそういうわけじゃあない。
ただ、ムカつくとか生理的に受け付けないとかそういう類で呪われたと思われる男をただ、私は傍観することにした。
「呪いの子どもと話していると、孤独が癒されるよ」
山内は友達がいなかったし、慕われたこともない様子だった。
一人暮らしの山内は弁当屋のバイトをしていたが、そこでも失敗して怒られてばかり。人間関係が円滑に行えない典型的な人間だった。見た目も性格もとても惨めで賢さはない。こんな奴でも大学に入ることができる世の中なのだなと思えたくらいにね。
そんな顔も髪の毛も脂ぎった彼には、もっと惨めで長い長い人生を送ってほしくなった。真面目に働いてもたいして収入を得られないだろう未来も見えていた。きちんとした会社に就職もできないだろう。結婚もできないだろう。彼女もきっとできないだろう。――でも、彼は死にたいと言わなかった。
呪われても誰に呪われたのか気づきもしなかったんだ。賢くない人間は割と好きだ。
ただ、偽善者でありたいからね。
「山内さん、呪い主のことわかったの?」
呪いの子は聞いたよ。
「わかんないよ。俺、みんなに嫌われているからね」
苦笑いで当然のように言う山内に心が揺らいだんだ。動かされた感じがした。これは、私の基準だから、ヒントを出したんだ。
「君のスマホに入っている連絡先で女子っている?」
「いたかなぁ?」
鈍臭い山内はスマホを確かめる。連絡先は一般の人よりもかなり少なかった。友達が少ないからね。
「そういえば、家庭教師を一度だけやった美沙っていう子の連絡先が入っていたけど、あとはいないよ。彼女には一度きりで断られちゃってね。教え方が悪かったのかな」
教え方だとか大学の偏差値が悪いとしか思っていない馬鹿な山内が少しばかり愛おしく思えたよ。容姿が生理的に無理というだけで断られたなんて微塵も思っていないんだ。
「もう、連絡しないんでしょ。消してみたら」
「それもそうだな」
消去ボタンを押したが全く消去できない。
「あれ、おかしいな。呪いのアプリが入っていると消去できないのかい?」
「呪い主じゃなければ、消去できるとは言ったよね。連絡先が変わっている場合も消去してもいいよ」
気づいたら、だいぶ山内という男に加担していたよ。自分とは全く違う物事を理論的に考えられない山内は自分とは異質な存在故嫌いじゃなかった。
「まさか、城崎美沙が呪い主じゃないよね」
冗談ぽく山内が口にしたんだ。
「当ったりー」
「え……? そうなの……? ということは、城崎美沙は……?」
「今、死んだよ」
呪いの子どもは抑揚のない声で伝える。
その時の、戦慄した山内の表情が忘れられないよ。彼は無意識のうちに人を殺したんだから。呪った美沙が悪いけどね。青空っていう男も、すぐに新しい彼女ができたし、美沙の死をずっと心に引きづっていたのは山内だったなぁ。人は見かけで判断しちゃいけないのかもしれないけれど、きれいごとだけじゃ世の中回らないよね。
私は、心に闇を引きずったまま生きる人間を応援したくなるときがある。平気で殺人する人間よりも、ずっと人間臭くて、すごく素敵だって思うんだ。
闇を潜ませた負け組決定な人間に少しでも長く生きてほしいんだよね。辛く苦い人生を味わい苦味を舐めて生きてほしいと願うんだよ。
♢ケース3 生命保険と二重の呪い
生命保険の勧誘の仕事を始めた主婦の森園子(仮名)っていう女性の話をするよ。もちろん全て仮名だけど実話さ。
仕事を始めた動機はよくあるパターンだ。大手会社の正社員という甘い誘惑に乗って、育児をしながら両立できるとママ友の斉藤に勧められたらしい。友人を社員として紹介すると友人には大きなメリットがあるということも知らずにね。世間知らずなんだよね。園子は友人と共に働くという安心感から専業主婦を脱することを決めたんだ。
実際は友達はカモになることをのちに知る。セミナーやイベントに誘っただけで誘った人には報酬が入る。そんな園子にはたまらなく憎い相手がいた。一番身近であり、愛するのが一般的であるはずの夫の存在だった。彼女のように一番身近な存在に対して憎悪を浴びせるという行動はとても崇高で当たり前だと思うんだよ。私が森園子に協力したいと思った動機だったよ。
園子は命保険会社に入社して保険について様々な知識を得た。勧誘すると、冷たく断られるのはしょっちゅうだ。人間不信になり、心が折れることも多々ある。友達もなくしてしまう。最近、話題になっている呪いのアプリと生命保険を組み合わせたら、どうなるのだろうと園子は思う。大金が入れば、こんな仕事をしなくてすむ。何よりモラハラ夫から解放されると園子の目つきが変化していた。そういう変貌は大好物だよ。
結婚して、園子は非常に後悔していた。後悔先に立たずという言葉を噛み締める。園子はモラハラという言葉を知ったのは最近だった。知識が足りないと、人生選択で馬鹿を見ることは多いね。夫の女性を馬鹿にした言動と傍若無人な振る舞いは、園子の心に闇の灯を静かに灯していた。それは、少しずつ、まるで水道から水滴が落ちるかのように少しずつ心に闇が積もっていた。塵も積もれば山となるとはまさにこのことかもしれないね。
あの人さえいなければ、自分は自由になれる。離婚は絶対にしないというモラハラ夫となんとか離れたい。でも、殺人をするには現実的にはリスクと精神的にも計画的なハードルが高い。そんな時、呪いのアプリを特集した記事を見かける。
「保険金をかけた人に呪いのアプリを入れたら、お金が入るってこと? あのアプリって死ぬと自然とアプリが消える。つまり証拠も消えるってことだよね」
営業では一応先輩となるママ友である斉藤に何気なく言う。一応というのも、斉藤自体そんなに営業経験があるわけではなく、半年ほど先に入っただけのキャリアだった。しかし、しっかり者で、いつも親切丁寧な斉藤のことは信頼していた。
「一緒に仕事をしたいから、誘ったんだよ。友達だよね」といわれていた。友達という響きは園子にはとても心地のいいものだった。
園子はあまり友達が多い方ではなく、斉藤のように気軽に何でも話してくれる友達は大人になってから初めてだった。友達という響きに多少喜びを感じていたことは否めない。
「呪いのアプリなんて、本当にあるわけないじゃない」
斉藤は都市伝説のような話に興味を示さない。
少し変なことを考えてしまった園子は後悔する。
仕事で疲れて帰宅しても、育児に家事にとても忙しい。
夫は当たり前のように妻が作った夕食を食べる。まるで、ロボットが勝手に作った夕食でも食べるかのように、当たり前に口に運ぶ。機械作業のようだ。
「大して収入もないくせに、一人前の顔をしやがって」という。
夫は収入がいい。妻が頑張って働くことに賛成していなかった。
女は黙って家事をやっておけというタイプだ。共働きだとしても絶対に家事をやらずに上から目線なのは変化がない。帰ると夫の面倒な愚痴を聞くことも、命令口調なのも全てが面倒になる。
「生命保険なんて俺は絶対に入らない。奴らはただ保険に入る人間を集めてくれるロボットがほしいだけだろ。身内を勧誘してノルマを達成できずに終了するのが関の山だ」
薄々そういう仕事だということは気づいていた。人を使い捨ての駒にして、ごみのように捨てられるような気もしていた。でも、成功している人もいる。この仕事が悪いと決めつけるのは時期尚早だと園子は思う。
手に職がない園子は、子どもがまだ小学校の低学年ということもあり、できる仕事が限られていた。子どもの行事、子どもの体調不調、子どもの学校関係で休まなければいけない。その点、保険の仕事は融通が利く。さらに、家族の協力はないのでまさにワンオペ育児という状態だった。
普通の会社の正社員になるのは果てしなく難しかった。しかし、年中正社員を募集している保険の外交員は不景気のあおりを受けずに求人があった。事務職はなかなか空きがないし、若い人を取ることが多い。歳を重ねた子持ちよりは独身で子どもの都合で休まない吸収力のある人間を求める。販売職は土日勤務を求められる。子どもが休みの土日は避けたかった。夫はどうせなにもしない。園子は期待することを辞めた。
子供と仕事にだけ向き合おう。
最初だけはみんな優しかったけれど、契約が取れなくなってくると当たりが強くなるのが目に見えてわかる。
パソコンを開くと呪いのアプリの特集が目に付く。呪いのアプリと検索してみる。
夫は妻が勤める会社の生命保険に入ってくれない。でも、独身時代に入っていた生命保険があった。受取人は妻になっている。
幻人に連絡をするとアプリを譲ってくれるらしい。
その書き込みがとても気になった。
仕事は全くうまくいかない。元々引っ込み思案でしゃべりが下手な園子は会社に居づらくなっていった。このままこの仕事をつづける自信はない。
意を決して送ってくれたメッセージはじんわり響いたよ。
『幻人さんへ。
ネットではじめてあなたのことを知りました。呪いのアプリを譲ってください。呪い殺してしまえば、全てハッピーエンドになれると思えるのです』
突然の胸を打つメッセージに驚いたよ。まぁ、こんなことはしょっちゅうだけれど、彼女からは真剣な気配を感じたんだ。初対面の相手に呪い殺してしまえば全てハッピーエンドになれるなんて普通送る? 結構クレイジーなタイプだなって強烈なインパクトを与えたのは確かだったよ。
『あなたのハッピーエンドはどういった結末ですか?』
私はそう返信してみる。
『ただ子供と幸せに暮らしたい』
実にシンプルだと思ったよ。
『呪いたい人の名前と連絡先を教えて。相手にはあなたの連絡先は入っている?』
『入っています。私の夫です』
その後、夫の本名と連絡先を教えてきた。
相当行き詰っていたみたいだから、少しばかりメッセージでなぜここにたどり着いたのか経緯を聞いたよ。
夫を殺して保険金をもらい、今の仕事を辞めたい。生命保険の外交員は思った以上に辛い。自分には向いていない。そんな内容を素直に書いてきた。モラハラ夫の愚痴もあったね。誰かに聞いてほしいみたいだね。それが殺人仲介人だとしても存在しない人間だとしても、そんなことは関係ないみたいだったよ。
『もう一人、呪いのアプリを入れたい人間がいます』
同時に二人申し込みたい人は珍しいから、ますます耳を傾けたくなったよ。
『生命保険の外交員に誘ってきた斉藤ゆきえに呪いのアプリをどうか入れてください。彼女がママ友に話していることを聞いたのです。森さんは暗いし外交員に向いてないけれど、ノルマのために誘ったら、すんなり入ってくれたのよ。でも、向いてないと思うの。早く辞めた方がいいと思うのよって。森園子を見てるとイラつく。死ねばいいのにって言ってました』
よくある女同士のトラブルってやつだと思ったけれど、面白そうな案件だから、斉藤という女性にアプリをインストールしてみたんだ。同時にアプリをインストールはできるんだ。呪い主のリスクは高くなるけれどね。二重に入れることができることは案外知られていない。リスクを高めてまで呪いたい相手がそんなにたくさんいる人は割と少ない。
もっと言えば、創造主としては二人以上に入れることもできるけれど、今まで無作為に入れたいという人はあまりいない事実。そういう人は、無作為に誰でもよかったという殺人事件を起こしたりするからね。アプリに頼る必要がないんだと思うよ。
森園子はどうなったと思う? 彼女はすぐに死んだよ。1日くらいであっという間にね。誰が当てたかというと、二人ともすぐに正解しちゃったんだ。
元々二人とも呪いのアプリに興味を持つように、わざと森園子に仕組んだんだよ。
どうしてかというと――園子の夫とママ友の斉藤ゆきえは不倫関係にあってね。邪魔な園子に死んでほしかったんだよ。だから、あえて呪いのアプリについて園子興味を持つように、呪いのアプリを特集した雑誌を見えるところに置いたのは斉藤。パソコンの画面に幻人のことを紹介しているページが見えるように仕組んだんだのは夫だ。
斉藤とモラハラ夫の二人は今でもきっとラブラブだと思うよ。もう、邪魔者はいなくなったのだから。でも、モラハラって死んでも治らないっていうよね。馬鹿は死んでも治らないっていうのと同じで、誰かを馬鹿にしないと生きていけない人間もいるんだ。きっと、斉藤からそのうち呪いのアプリの依頼が来るんじゃないかと確信しているんだけどね。
それと、すっかり本人は忘れていたのだけれど、森園子は結婚した頃に生命保険に入っていたんだ。もちろん受取人は夫だった。つまり、夫はお金も女も手に入れてハッピーエンドだったということだよ。
因果応報という言葉はあるけれど、これは、宛てにならないと思う。アプリ経由で色々な人の人生を見て来たけれど、悪人が不幸になる理由はない。善人が幸福になる理由もない。
因果応報という言葉は、善人が自分が損をするはずがないと思い込みたいという思想から生まれた言葉のような気がするな。少なくとも、その言葉を使っている人は、悪人や罪人は不幸になるべきだという倫理観で使っているとしか思えないんだよね。
♢ケース4 主婦過干渉の母 春川さくらの場合
最近、実話小説の読者の反応が良いから、今日は本当にあった泥沼親子愛を紹介するよ。ある意味純愛だね。
今回は、呪いのアプリ関連で亡くなった主婦で母親である春川さくら(仮名)。典型的な溺愛系教育ママっていう感じだよね。春川さくらは50代主婦で子供は20代の大学生の一人息子がいたんだ。夫は大手企業の会社員。教育熱心で大学生になった今も過保護すぎるくらいの愛情を注いでいるという近隣の人の噂もあったんだ。
春川さくらは筆まめで、毎日日記をつけていたんだ。日記に呪いのアプリについて書き記していた。創作ではない恐怖感が感じられるゾクゾク感がたまらないね。その内容について説明しよう。彼女はスマホこそもっていなかったけれど、パソコンでのブログ執筆はかなり熱心だったよ。これは、抜粋だよ。死人に許可は取れないから無断で掲載させてもらったよ。
♢♢♢
春川さくらの日記
6月1日 呪いのアプリがインストールされていた。操作方法がわからず、ケータイショップに行くが、アンインストールできない。購入したばかりの機種だったので、仕方なくそのまま使用することとする。すると、アプリが勝手に動き出した。名前はないが、呪いの子どもと自称する少年が現れる。「14日以内に呪い主を探さなければ死ぬ」と宣告される。
きっと何かのいたずらだろう。スマホの電源を切ろうとしたが、切れない。
「連絡先一覧に呪い主がいる。言い当てれば、あなたは助かる。しかし、3人までしか当てる権利はない」と言われた。夫に言っても信じてもらえない。何かの詐欺だろうと言われてしまう。
息子は今日は5時には帰宅するという。夕食を一緒に食べるのが我が家の掟だ。最近、遅い帰宅が多く、掟を破ることが多い息子。でも、今日は愛息子のためにシチューを作ろう。
6月2日 呪いの子どもという少年は、日々恐怖を与えてくる。死へのカウントダウンが表示される。なぜ、こんな風に私を追い詰めるのかわからない。誰が私を呪っているのだろう。心当たりがない。もしかしたら、ママ友だった人だろうか。カルチャー教室の友人だろうか。でも、誰とももめることがなかったので、怨まれる筋合いはない。カルチャー教室やママ友に息子の大学名を言うとみんなすごいと称賛する。素晴らしい息子を持ったと思う。私に似た真面目で頭のいい子だと心の中で自慢する。
6月3日 町内会の若者にごみの出し方を注意した時に舌打ちされたことを思い出す。あの人かもしれない。でも、双方の携帯に連絡先は入っていない。
コンビニの店員に間違いを指摘した人だろうか。でも、その人の連絡先はわからない。考えるときりがない。呪いの子どもは、このアプリに支配されると、全てが敵に見えると言って来る。
たしかに、あちらが勝手に怒っていることもあるかもしれない。怖くなって外に出たくなくなる。連絡先一覧を消去できなくなっている。怖い。息子はスマホに詳しいだろう。聞いてみようかと思うが、心配をかけたくない。
でも、今日はサークル活動で帰宅が遅くなるという。我が家の掟を破るとは、子どもは思った通りには育たない。しかし、何歳になっても子どもは子どもだ。しつけはやめるべきではないだろう。
6月4日 最近、息子が反抗的だ。なぜ愛情が伝わらないのだろう。とりあえず、誰にでも優しく接してきたつもりだ。誰が私を怨んでいるのだろう。呪いの子どもは本当に不気味だ。呪いのアプリの相談しても誰も信じてくれない。もしかして、夫が私を呪っているのだろうか。みそ汁がしょっぱいだの、ほこりがついているなど、家事に文句を言ってくる。身近な人ほど不満が募るという話は聞く。
呪いの子どもに言ってみる。
「呪い主は私の夫の和男ではないだろうか」
「違うよ。これであと二人しか当てる権利はなくなっちゃったね」
無表情で抑揚のない声はとても恐怖を与える。
「当てちゃったら呪い主は死んじゃうから、結構な怨みを持っているんだろうね。自分の命を懸けた殺人でしょ」
「これで、私が殺されても呪い主は殺人犯にはならないってこと?」
「そうだね。この世界はアプリや呪いで殺した場合、実証が難しいから刑罰は問われないよね」
「そこまで、私を呪っている人って、もう関わりのない誰かかしらね? 昔の同級生とか」
「さあね」
そう言うと子どもは消えてしまった。不思議な存在だ。
6月5日 息子に夕方5時までには帰宅するように言う。最近はどこかに泊って帰ることも増えてしまった。誰か悪い女性にたぶらかされているのかもしれない。その女性が私を呪っているのだろうか。息子は従順でいい子だった。今も心根は変わらない。もしかして、悪い男友達ができたのかもしれない。アルバイトをする必要がないくらいお小遣いも渡しているのに。なぜうまくいかないのだろうか。きっと反抗期だ。
その後も日常の日記が書かれている。主に息子に関して、反抗的な息子に親としてしつけをするべきだということが主だった。
そして、彼女の日記の内容は夫への不満が本当に多い。あまり、カルチャー教室や友達関係のことは書かれていなかった。というのも、カルチャー教室があるのは月1回程度で、特定の誰かと深い関係を持っていなかったからだよ。
彼女は、店や町内会の人の連絡先をスマホに入れていなかったんだ。なぜならば、彼女は最近、息子に勧められてスマホを購入したばかりで、使いこなせていなかった。そして、彼女は14日後に急死した。心臓が急に止まったらしい。
最期に大量の息子の写真に埋め尽くされて死んでいたとネットのニュースに書かれていたよ。愛する息子に囲まれて死ねてよかったよね。とは言っても、写真だけどね。
結局、彼女は呪い主を特定できなかったんだと思う?
実は……彼女のスマホに入っている連絡先は夫、息子、実家の番号しか入っていなかったんだ。彼女は主に自宅の電話を使っていて、カルチャーセンターの友人などには宅電で連絡していたんだ。それまで、ガラケーすら使っていなかった。夫が携帯電話を持つことに反対していたらしい。しかし、息子に勧められて突然スマホを購入した。実家は自宅の電話だった。高齢の両親は、自宅の電話機能についている電話帳を使っていなかったんだ。
つまり――呪い主は息子しかいないということなんだよね。
でも、なぜ言い当てなかったのだと思う?
息子を溺愛していたから、息子を失うことを避けたかったのだろうね。溺愛ゆえ、かなりしつけとした罰を与えたり、言葉の暴力も多かったらしい。それにずっと息子は耐えていた。しかし、成人して、友人宅に逃げるようになった。それを母親は良からぬことと、友人宅へ乗り込んだという記載もある。
呪い主が息子だと気づいていたのに、それでも気づかぬふりをして自らの死を選ぶ。愉快だよね。そういう純愛は大好きだ。
大切な人を失ってまで生きることが辛いということは彼女は理解していたのだと思うよ。どんなに束縛や過干渉をしていても根底は愛情があったのだろうね。
しんみりした気持ちになるよ。
呪い主を心の中で特定していても呪いの子どもに言わなければ、相手は死ぬことはなく自分が死ぬだけ。そして、14日後にぴったり死ぬことだ。シンプルなルールは必ず発動するということだよ。恐ろしき、現代の呪いの方法は実にリスクが高く、しかしながら簡単に実行できるということだよ。
♢♢♢
春川さくらの息子視点 狂気への変貌
これは、息子の秘密の書き込みを見つけたものだよ。本人の許可は取っていないけれど、契約の条件は面白さだから、私と契約するときは、個人情報がある程度公開される覚悟をすることも必要だよ。
毎日毎日母親と名乗る女がうざい。生まれた時から、母親だと名乗る人間を選ぶことはできない。それは俺以外の誰でも同じだろう。気づいたら親はいる。いることがこんなに窮屈だということ、親孝行はやるべきであるという世間の風潮の圧迫に耐えかねた俺はどうにも、心を静める場所を得られなかった。親不孝という形は様々あるが、この大学を卒業をするということは自分自身へのメリット以外感じていない。犯罪者になれば、大学を卒業していい就職先への道は閉ざされる。そして、俺は、この家から通える職場でなければいけないという制約をかけられている。
なぜ、あの女はそんなに俺を制圧威圧をするんだろう。支配することであの女は生き甲斐を感じているのだろうか。もしかしたら、父と名乗る男に逆らえない鬱憤が俺の方に向いているのだろうか。俺の成功が自分の成功だと勘違いしているようにも思える。自分が勉強してもいないくせに、やたら自慢気だ。俺が頑張った成果をあたかも自分の成功かのような言動には虫唾が走る。
俺はずっと母親の敷いたレールの上を歩いてきた。この先もずっとそれは続くだろう。逆らうと暴言と無視の毎日。仕舞いには、手を上げてくる。俺は暴力で物事を片付けるのが嫌いだ。だから、理路整然と片づけられる何かを探していた。物事はスマートに最短でやり遂げるということを幼少期から叩き込まれてきた。
髪型も服装もカバンも進路もあの女が決めてきた。きっとこの先の就職や結婚相手や孫さえも決めていくのだろう。あの女の手中で俺は生き続けていかなければいけないのだろうか。きっと全てが自分のおかげであり自分が成し遂げたと頭の中で変換するのだろう。俺は自由になりたい。いや、自由になるんだ。そのためにあの女を消す。
一番いい方法を知った。呪いのアプリだ。これこそ、法律を掻い潜り、自らの手を汚すことなく消すことができる最短の手段だ。己の死を引き換えにという代償なんて俺にはあってないようなものだ。なぜならば、あの女は本物の母親であり、俺を失ったら生きていけないことを知っているからだ。俺なしでこの世に価値を見出せない、そんな人間が自分だけ生き残るという手段を得るだろうか。100%ありえない。絶対にな。
体に残ったあざも心の傷も支配から逃れればきっと忘れられる。父親に関して言えば、母親ほどの干渉はない。面倒な場合はそのうち父親を消せばいい。俺は最強のアプリを知ってしまった。呪いの子どもとの契約はとても簡単で、最短で遂行できるということに気づく。
面倒なこと、嫌なことは消去する。これは、俺の中に宿る呪いの力だ。どんなカウンセリングもどんな説得も道徳も俺に通用はしないと今は自覚している。俺の中の狂気と怨念が駆り立てる衝動は誰にも抑えられない。もう抑えられないところまで来てしまったのだ。血縁も恩義も俺に通用はしない。なぜならば、ずっと耐え続けてきたからだ。
どんな理不尽なことも強要も全て呑み込んで自分の中に抑え続けていた。でも、人には我慢の限界がある。いつかコップの水は溢れるかのように俺の中の怨念が溢れていた。それは、もう自分の力で止めることはできないし、決して許すことはしないだろう。
以上が書き込み内容だ。凍るような思いを感じたよ。一番愛している人、一番近くにいる人が恨みを抱いている。なんて複雑で面白いのだろう。人間って面白いよね。
♢まりかへの疑惑
翌日、芳賀瀬家で爆睡していたカルトがヨージの電話で起きる。シャワーを浴びたカルトは、まりかが高校に行っている時間に二人きりになれるカラオケ屋で密談をする。
「カルト兄さん。ここだけの話だけどさ。ちょっと気になることがある、駅前のカラオケ屋に来てよ」
ヨージが真面目な声で電話をしてきた。カラオケ屋は防音だし、他人に聞こえない。監視カメラの死角を探して話を始める。
「俺なりに探ってみたんだけどね。芳賀瀬まりか、真崎壮人の二人が怪しいと思うんだ」
思いもよらぬことを耳打ちする。
「芳賀瀬まりかは友人の妹で、まだ高校生だぞ。壮人だって、殺しをする奴じゃあない」
「高校生だから、そんなこと計画しないなんて断言できないよね。それに、呪いで死ぬことがわかっているのに冷静だと聞く。神経も普通じゃない。若干18歳の女子とは思えない。それに彼女は優秀だと聞く。そのアプリを作っていたとしてもおかしくないと思う。真崎壮人は芳賀瀬さんやカルト兄さんに非常に近い人物だ。つまり、何かしらの恨みによって呪う可能性はある。真崎家は呪術師家系だと聞いた。それにパソコンに詳しく優秀な人材だ。それならば、アプリの開発は可能だろ」
「芳賀瀬まりかに関して言えば、彼女が一人で作ったというのか?」
「兄と共同制作している可能性もあるし、譲渡人を仲介している役割を担っている可能性もある。おかしいだろ。積極的に捜査に加わりたいなんて。普通は怖いから助けてという心理になるのが人間だ。彼女は俺と違って呪い主が特定できていない。つまり、死と隣り合わせであの態度は不自然すぎる」
「まりかは、肝が据わっているんだよ。それに、彼女が怪しいという証拠がない」
まりかは違うとカルトは擁護する。
「真崎壮人は正直2番目に怪しいと疑っている。なぜならば、彼の場合は優秀で地元で有名な呪術師家系だという根拠がある。それと、アプリがインストールされた人物が高校時代の親しい人物の関係者だったからというファイリング結果が疑いの理由だ」
カバンからパソコンを取り出し、説明するヨージ。
「実は、この動画なんだけど。俺は第1に怪しいのは芳賀瀬まりかだと思う」
捜査本部の部屋にて、隠し撮りされた動画をヨージがみせる。まりからしき女性が警視庁に出入りして捜査の資料を漁る様子をうつしたものだ。
「これは、どうやって入手したんだ?」
カルトの表情が変わる。
「犯人はきっと捜査本部の情報を手に入れたいと思うだろうと思ってさ。俺は一度捜査本部に行った時、部屋に隠しカメラを仕掛けたんだ」
ヨージは縦に一本指を立て、静かにというジェスチャーをする。
「おい、そんな勝手なこと許されると思っているのか」
「この部屋は、ほとんど誰も出入りしない。出入りするとしたら、他部署と兼任している部長と課長、そして、城下さんとカルト兄さん。警察内部でもここの捜査本部は公にされていない。ただ一時的に会議室を借りているという形だ。これは違法だと思ったけれど、人の命がかかっている。だから、あえてここにカメラをつけさせてもらった。この部屋には重要な情報がたくさんある。少しでも犯人ならば警察がつかんでいる情報を入手したいだろ。逮捕されたらおしまいだ。秘密にして勝手に捜査資料を漁るのは協力者の域を超えていると思わないか」
それも、そうだ。しかし、情報を得たい理由があったのだろう。それに、もしかしたら合成とかフェイク動画という可能性も捨てきれない。フェイク動画と認定することは、ヨージを疑うことにつながるので、創造主にヨージが騙されているという可能性と考えたほうがいいかもしれない。少なくとも、カルトは心の中で言葉を選んだ。
「あと、芳賀瀬まりかが書き込みをしているという情報解析もしてみたよ。ネット上で創造主を名乗り、仲介している幻人は芳賀瀬まりかだ」
ヨージが解析したデータを見せる。まりかの自宅のパソコンから幻人が書きこみをしている文章が発信されている。これは、信憑性のある情報なのだろうか。
「この情報は他の三人にも共有させてもらったよ」
「部長たちにも報告済みなのか?」
「怪しい人間が出入りしているんだ。そういったことは隠れて耳打ちしないとまずいだろ。呪いの子どもを使って俺たちが被害にあう可能性もあるんだ。俺は、大好きなカルト兄さんが死んだらめちゃくちゃ悲しいからさ」
「俺なりに色々確証を得てから、まりかのことは考える」
「全く、カルト兄さんは慎重だなぁ」
ヨージは半ば呆れ顔でデータをしまう。こんな短期間にデータを作成して、報告書を作ってしまうヨージは仕事が早い。でも、アプリの創造主はネット上の詐欺師だ。今までも、捜査をかく乱させる為にあらゆる手段を使っている。関係ない人間の家から送信したことになっていたことは何度もある。だから、警察も捜査が進まなかった。このデータを信じても、創造主のワナの可能性もある。
まりかの動画がフェイクならばヨージが嘘をついているということになる。ヨージの動画が本当ならば、まりかが嘘をついていることになる。
どちらかが、嘘をついているのならば、真実をひとつひとつ探し出すことが最善だろう。公平に一歩一歩。
ヨージは何事もなかったかのようにパソコンを眺めていた。たまに、ヨージ本体と心がばらばらに分かれているように感じる事がある。何も感じていないという印象だった。本当に楽しいとか悲しいとかそういうことを感じない鈍感力を彼は持っているようにも思えた。ある意味図太い神経ともいえる。そして、言い方を変えると、心がからっぽで何も感情持っていないというのが秋沢葉次だった。
芳賀瀬まりかの印象は、非常に常識的で、正義のために自分の犠牲が怖くないような正義感の塊のような印象を受けた。普通の女性にはないような己を貫く力。そして、興味関心への貪欲さ。
真崎壮人への疑念も払拭はできない。可能性の確率の話から行くと、ゼロという断定できる人間はいない。あのアプリは遠隔操作ができる。つまり、誰にでも可能性はある。しかし、身近な怪しい人という点ではヨージの主張はあながち間違っているわけでもない。しかし、壮人との接点が最近はなく、カルトは今の壮人の気持ちがよくわからないのが本音だった。壮人自身が変わってしまっていたら――。疑いだしたら止まらない。
秋沢、まりかの二人とも全然タイプが違うが、呪いのアプリに対して恐れを感じていないというのが共通点だった。
創造主を探す作業。――砂の中から、小さなビーズを探す作業のように途方もなく気が遠くなりそうな作業だった。