◇
「うわっ。でた神崎姉妹! やばいやばいやばい、まじで似てなさすぎでしょ〜! それで姉妹とか超詐欺だから。っていうかオネーサン、ちょっとその眼鏡ださくないっすか? なんか全体的に地味すぎて陽菜とのコントラストがすごいんですけど!」
けらけら甲高く笑う声が耳に障る。
目を伏せながら聞こえないふりをするけれど、目の前にいる陽菜がまんざらでもないような顔で会話を続けるので聞こえないふりをするのにも限度があった。
「ほっとけっつーの! っていうか何度も言ってるけど姉妹じゃなくて従姉妹だから! それにジミとか言ったら精一杯お洒落してきた月乃が可哀想じゃん〜」
「えーっ、でも一緒に住んでるんでしょ? ややこしいからもう姉妹でいいじゃん。それにその校則見本みたいな髪型でお洒落とか冗談っしょ! っつうかさあ、そもそも陽菜、なんでうちら誘ってくれなかったんさー。今日部活で顔合わせたってのに〜」
「え、だって〜。ユカたちすでに女バレの子達と先約決まってたから無理だと思って。平気なんだったら声かければよかったよ〜」
屋台を数軒回ったところで私たちはいつの間にか陽菜の友人グループに囲まれていた。
右を見ても左を見ても夜会に赴くような完璧ヘアメイク、小綺麗ネイルに、お洒落なデザインの新品浴衣――。
きっと私と彼女たちは、根本的に住む世界も、見えている世界も、全く違うんだと思う。
逃げる間もなく繰り広げられる賑やかな会話とその雰囲気に、ひどく気後れする。
「ほんとだよねー。今からでも一緒に来る? あと一人分、かき氷無料食べ放題券あるからふわふわの天然氷めっちゃ食えるよ」
「うわ、行きたいけどさー。他に回るところあるし、ちょっと他に約束してる人もいるから今日は無理かも」
「えーまじかー。ざんねーん。まっ、オネーサンもいるし仕方ないかあ」
「だぁーかぁーらぁ。姉妹じゃないっての!」
おまけに彼女たちの会話は私の存在を否定しているように聞こえてならなかった。
悪気はないのかもしれないし、卑屈になるのはやめようと何度も思い直して愛想笑いの一つでも浮かべようとするけれど、そこで愛想を振りまけるほど私は器用ではなかった。
「陽菜、そろそろ時間」
「あっ。ほんとだ。ごめん、じゃあまた明日部活で!」
「うん、またねー」
半ば強制的に話を打ち切り、その場を立ち去る私と陽菜。去り際、「見た⁉ あの浴衣やばくない⁉ 色も変だしばあちゃんちのトイレみたいな匂いしたんだけど!」「わかる! 眼鏡と髪型もなんか古いし」「顔はそこそこなのにセンスが残念っていうか、なんかもったいないよねー」「しーっ、聞こえるって!」と、そんな会話が微かに聞こえてきて胃がきりきり痛んだ。
再び聞こえないふりをして無言で歩みを進めること数分、居た堪れない気持ちを隠すために止めていた息をようやく吐き出せるようになったのは、陽菜の友人集団が屋台や人混みの陰に隠れて完全に見えなくなってからだった。
「はーあ。かき氷かあ。彼も大事だけど、ユカたちともまわりたかったなあ」
何気なく吐き出された陽菜の言葉に心が抉られる。
そこに私はいない。
私だって好きで今この場にいるわけではないのに。
もういっそのこと、陽菜もユカもユカ以外の友達も彼もその人の連れも。みんなまとめて一緒に祭りをまわってくれればよかったのにと、惨めな気持ちに拍車がかかり今すぐこの場から消え去りたい衝動に駆られる。
でも――。
「あ、盆踊り会場見えてきた。ねー月乃、ちょっとこれ持ってて。そこにある雑貨屋のトイレで髪の毛のチェックしてくるから」
結局私は、それを行動に移す勇気がないから。
「……うん」
差し出された巾着袋を両手で持つ。陽菜は踵を返すと鼻歌を歌いながら近くにあった雑貨屋に入っていった。
「うわっ。でた神崎姉妹! やばいやばいやばい、まじで似てなさすぎでしょ〜! それで姉妹とか超詐欺だから。っていうかオネーサン、ちょっとその眼鏡ださくないっすか? なんか全体的に地味すぎて陽菜とのコントラストがすごいんですけど!」
けらけら甲高く笑う声が耳に障る。
目を伏せながら聞こえないふりをするけれど、目の前にいる陽菜がまんざらでもないような顔で会話を続けるので聞こえないふりをするのにも限度があった。
「ほっとけっつーの! っていうか何度も言ってるけど姉妹じゃなくて従姉妹だから! それにジミとか言ったら精一杯お洒落してきた月乃が可哀想じゃん〜」
「えーっ、でも一緒に住んでるんでしょ? ややこしいからもう姉妹でいいじゃん。それにその校則見本みたいな髪型でお洒落とか冗談っしょ! っつうかさあ、そもそも陽菜、なんでうちら誘ってくれなかったんさー。今日部活で顔合わせたってのに〜」
「え、だって〜。ユカたちすでに女バレの子達と先約決まってたから無理だと思って。平気なんだったら声かければよかったよ〜」
屋台を数軒回ったところで私たちはいつの間にか陽菜の友人グループに囲まれていた。
右を見ても左を見ても夜会に赴くような完璧ヘアメイク、小綺麗ネイルに、お洒落なデザインの新品浴衣――。
きっと私と彼女たちは、根本的に住む世界も、見えている世界も、全く違うんだと思う。
逃げる間もなく繰り広げられる賑やかな会話とその雰囲気に、ひどく気後れする。
「ほんとだよねー。今からでも一緒に来る? あと一人分、かき氷無料食べ放題券あるからふわふわの天然氷めっちゃ食えるよ」
「うわ、行きたいけどさー。他に回るところあるし、ちょっと他に約束してる人もいるから今日は無理かも」
「えーまじかー。ざんねーん。まっ、オネーサンもいるし仕方ないかあ」
「だぁーかぁーらぁ。姉妹じゃないっての!」
おまけに彼女たちの会話は私の存在を否定しているように聞こえてならなかった。
悪気はないのかもしれないし、卑屈になるのはやめようと何度も思い直して愛想笑いの一つでも浮かべようとするけれど、そこで愛想を振りまけるほど私は器用ではなかった。
「陽菜、そろそろ時間」
「あっ。ほんとだ。ごめん、じゃあまた明日部活で!」
「うん、またねー」
半ば強制的に話を打ち切り、その場を立ち去る私と陽菜。去り際、「見た⁉ あの浴衣やばくない⁉ 色も変だしばあちゃんちのトイレみたいな匂いしたんだけど!」「わかる! 眼鏡と髪型もなんか古いし」「顔はそこそこなのにセンスが残念っていうか、なんかもったいないよねー」「しーっ、聞こえるって!」と、そんな会話が微かに聞こえてきて胃がきりきり痛んだ。
再び聞こえないふりをして無言で歩みを進めること数分、居た堪れない気持ちを隠すために止めていた息をようやく吐き出せるようになったのは、陽菜の友人集団が屋台や人混みの陰に隠れて完全に見えなくなってからだった。
「はーあ。かき氷かあ。彼も大事だけど、ユカたちともまわりたかったなあ」
何気なく吐き出された陽菜の言葉に心が抉られる。
そこに私はいない。
私だって好きで今この場にいるわけではないのに。
もういっそのこと、陽菜もユカもユカ以外の友達も彼もその人の連れも。みんなまとめて一緒に祭りをまわってくれればよかったのにと、惨めな気持ちに拍車がかかり今すぐこの場から消え去りたい衝動に駆られる。
でも――。
「あ、盆踊り会場見えてきた。ねー月乃、ちょっとこれ持ってて。そこにある雑貨屋のトイレで髪の毛のチェックしてくるから」
結局私は、それを行動に移す勇気がないから。
「……うん」
差し出された巾着袋を両手で持つ。陽菜は踵を返すと鼻歌を歌いながら近くにあった雑貨屋に入っていった。