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(十二年……前――)

 記憶を辿る間もなく、すぐに脳裏を掠めたのは母が死んだあの日のことだ。

《あの日は朝からよく晴れてて、絶好のバーベキューパーティー日和だった》

「あ……」

 目を瞑り懐かしむようにそう語る影亮くんの言葉に触発されるよう、すっと脳内に浮かんでくる当時の光景。

《あの頃、うちの両親はちょうど離婚したての時期でさ。母方に引き取られた兄貴の光亮は月乃ちゃんと同じ『ひだまり保育園』の園児だったけど、隣町に住む親父の元に引き取られた俺は別の保育園に通ってたんだ。……でもあの日は、かなり大規模なイベントで兄弟やら親族やらを一人でも多く誘ったもん勝ちみたいな空気の会だったから、子どもが喜ぶだろうからって理由で、お袋が俺や親父を誘ってくれたんだよね》

 それは私が成外内の神様のふりをした影亮くんに話した内容とほぼ一致していて、父がいなくてぐずる私の他にも、複雑な環境を背負ってバーベキューに挑む家族がいたということを今初めて知った。

《俺も光亮も、もしかしたらこのイベントで両親がまた仲良く元通りになってくれるかもしれないって心のどこかで期待してた。でも実際にはそう上手くいかなくて……他の家族たちには見えないところで親が喧嘩を始めちゃって。なんとかして二人を止めなきゃって、すっげえ焦った俺は、自分がいなくなれば親父もお袋も喧嘩をやめて探しにきてくれるだろうって安易に考えて、この会場から飛び出したんだ》

 ――ああ、そうか。そうだったのか。

 あの日、参加していた子どもが一人いなくなったと騒動になり、私もみんなと一緒に探して回ったのだが、あの時にいなくなった子どもこそが影亮くんだったのだ。

「そ、んな……」 

 ようやく彼の存在に思い当たり、衝撃を抑えるよう口元に両手を当てると、影亮くんは静かに微笑み、浴衣の袖の袂から臭い袋のようなごく小さい巾着袋を取り出した。

 黒字に赤の刺繍が施されたその袋。紐を解くと中から硝子細工でできた透明の小鈴がころりと飛び出してくる。

 この杜の軒先にぶら下がる、縁結びの小鈴の一つだ。

 長い間その袋の中で大切に保管されていたのだろう、多少の経年劣化は見られるもののこの鈴独特の透明感と輝きは失われていない。

「そ、れ……」

 その鈴を見て、ようやく私の脳裏に数々の記憶が蘇ってくる――。