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 父と対面を果たしたその日の昼下がり、再び手土産を持って成外内神社へ立ち寄った私は、早速神様にことの顛末を報告した。

《……ふむ。では、施設に行かずに済みそうなのだな?》

「はい。父がすぐにでも叔母夫婦と話し合いをしてくれるそうなので、それがまとまり次第、父の家に住もうかと思っています」

 別れ際に父と話し合ってきた内容をそのまま伝えると神様は満足したように何度も頷き、さらに尋ねてくる。

《そうか。おぬしにとってはそれが最善だろう。しかし、話がまとまり次第……ということは、しばらくはまだ寺に世話になるつもりなのか?》

「ええ。正直、すぐにでも父の元へ行きたい気持ちもあるんですが、今日初めて会ったばかりでいきなり同居っていうのは、その……ハードルが高すぎるというか。やはり私もそれなりに年頃なので、ちょっと心の準備をしたくて……」

《ははん、なるほどな》

「もちろんその辺は父も配慮してくれてまして、気になるようなら血の繋がりを調べたり、身辺調査をしてもらって構わないとまで言ってくれてるんですが、さすがにそこまでする必要はないかなと。でも、叔母との話し合いが拗れた場合に証明があった方が有利に進められると思うので、念のため血のつながりだけは調べてもらうことになりました」

《ほう。それで、その結果が出るまでは寺にいるつもりというわけか》

「はい。早くて三週間くらいで結果が出るそうなので幸い夏休み中にはカタが付きそうですし、和尚さんにお話ししてその間はお寺にお世話になりつつ、時間のある時は父のお弁当屋さんを手伝おうかなと。……あ、もちろん、その間の滞在費は私……というか父が負担してくれるそうです」

 そう補足すると、神様はふっと柔らかい笑い声を漏らし、

《三週間か……》

 と、なぜかそこだけは神妙な声色でつぶやいた。

 その一言に、はっとする。

 三週間――。そもそも私は、神様と生まれ変わる約束をしているのに、そんな先の予定まで入れてよかったのだろうか。

 神様は、願いは二度と取り消せないって言ってたし、力が弱ってるってとも言ってた。

 三週間も持たないとか言われたらどうしよう……。

 今さらながら自分の計画性のなさを猛省しつつ冷や汗をかいていると、

《ならば今しばらく、おぬしは閊えを祓う作業を続けなければならぬな》

「……!」

 予想に反して神様は自ずとそんなことを仰った。

「は、はいっ。もちろんそれは忘れずに続けますっ」

 意気揚々と答えると、神様は深く頷きゆっくりと天を仰ぐ。

《大なり小なり十七年分の閊えはそう簡単に祓えぬからな。ちょうどいい機会だと思って徹底的に清算してくるがよい》

 深みのある声がふってきて安堵する。すぐさま大きく頷いて深く頭を下げた。

 そこで別れを告げてこの日は帰路についたのだが、駆け足で石段を降りるときも、バス停でバスを待つときも、遅れてやってきたバスに乗ってゆらゆら揺られている間にも――どこか心の中に靄がかかったような気持ちが拭えなかった。

 あんなに楽しみだった生まれ変わりの約束が、今では少し……いやだいぶ、楽しみではなくなってきてしまっている。

 ――一度引き受けた願いは二度と取り消せんのだぞ? よいのだな?

 あの日の神様の声が蘇る。

 どんなに望もうとも、もう二度と願いは取り消せないんだ――。

 じわりと芽生え始める後悔。けれど今はその事実から目を逸らすしかなかった。