「夢のカケラを集める際、一人の人間につき一度しか夢に入れないという法則がある。つまり俺が灯の夢に入ると、今後俺を含め誰も灯の夢には入れないということだ」
けれど、私が見た影は一度じゃない。
「初めて夢に入ったのは灯がまだ小学生の時。俺を見ても灯は怖がったり泣いたりせず、ただじっとこちらを見つめていた。それからしばらく経って鏡は再び灯の夢へと繋がった」
本来なら絶対に有り得ないことで、初めは鏡の不調を疑ったらしい。しかしそれは二度、三度と続いた。
「これは何かあると思って、夢の中にあったものを持ち帰った」
「持ち帰ることに何か意味があるんですか?」
「夢の中にあるものを持ち帰れば、図書館の鏡を使わずとも灯に会える手段が作れるのではないかと思ったからだ」
発想がクラネスさんらしいな。
私の夢から持ち帰ったものは勿忘草。その夢のことなんて当然私は覚えていないけれど、持っていたものが勿忘草であるというのが何とも言えない。だって花言葉は。
「私を忘れないで」
「寂しかったんだろうな。夢はその人の隠したい思いを映すこともある」
私は誰かの記憶に残りたいと思うほど寂しかったのだろうか。
そしてクラネスさんは私の家にある鏡と繋がる鏡を作り出し、時々様子を見ていたのだという。
私が表に出していない隠したかった感情を彼が知っていたのは、一人だと思って呟いていた独り言や泣き言を聞いていたから。
やっていることはストーカーと変わりないけれど、今回は目をつぶろう。
「どうして私のことを見てたんですか?」
「夢で何度も会っていたから単純に気になっていた。母親が亡くなってからは"心配"の方が強かったが」
この瞬間確信した。私はこの人に自分の母親が亡くなっていることを話していない。それなのに知っているということは、クラネスさんは本当に私のことを知っている。
「どうして影なんですか?」
「影に見えていたのは俺が黒いローブを被っていたせいだろう」
「どうして、逃げるんですか?」
「……」
影は私が手を伸ばそうとすると逃げていた。それがクラネスさんだったなら、私のことを気にかけてくれていた人だったなら、寂しいと気づいていたのなら、なぜ。
――応えてくれなかったの?
その問いに彼は静かに答えた。
「本当は伸ばしてくれた手を取りたかった。何度も呼んでくれる声に応えたかった。だが、人間に触れてはならないという決まりがあったんだ。触れてしまうと灯は、その夢から覚めることができなくなる」
「え……」
それに「あの姿を見せると怖がらせてしまうだろ」とクラネスさんは辛そうに笑っていた。
あの日以来、クラネスさんは吸血鬼として私の前に現れていない。
彼は夜にならなければ本来の姿になれないと話していた。しかし夜になると部屋にこもってしまう。
私と会わないようにしていたんだ。
私を、怖がらせないために。
怖かったら言えと言ったのはクラネスさんなのに、やっぱり気にしていたんだ。
けれど、私が見た影は一度じゃない。
「初めて夢に入ったのは灯がまだ小学生の時。俺を見ても灯は怖がったり泣いたりせず、ただじっとこちらを見つめていた。それからしばらく経って鏡は再び灯の夢へと繋がった」
本来なら絶対に有り得ないことで、初めは鏡の不調を疑ったらしい。しかしそれは二度、三度と続いた。
「これは何かあると思って、夢の中にあったものを持ち帰った」
「持ち帰ることに何か意味があるんですか?」
「夢の中にあるものを持ち帰れば、図書館の鏡を使わずとも灯に会える手段が作れるのではないかと思ったからだ」
発想がクラネスさんらしいな。
私の夢から持ち帰ったものは勿忘草。その夢のことなんて当然私は覚えていないけれど、持っていたものが勿忘草であるというのが何とも言えない。だって花言葉は。
「私を忘れないで」
「寂しかったんだろうな。夢はその人の隠したい思いを映すこともある」
私は誰かの記憶に残りたいと思うほど寂しかったのだろうか。
そしてクラネスさんは私の家にある鏡と繋がる鏡を作り出し、時々様子を見ていたのだという。
私が表に出していない隠したかった感情を彼が知っていたのは、一人だと思って呟いていた独り言や泣き言を聞いていたから。
やっていることはストーカーと変わりないけれど、今回は目をつぶろう。
「どうして私のことを見てたんですか?」
「夢で何度も会っていたから単純に気になっていた。母親が亡くなってからは"心配"の方が強かったが」
この瞬間確信した。私はこの人に自分の母親が亡くなっていることを話していない。それなのに知っているということは、クラネスさんは本当に私のことを知っている。
「どうして影なんですか?」
「影に見えていたのは俺が黒いローブを被っていたせいだろう」
「どうして、逃げるんですか?」
「……」
影は私が手を伸ばそうとすると逃げていた。それがクラネスさんだったなら、私のことを気にかけてくれていた人だったなら、寂しいと気づいていたのなら、なぜ。
――応えてくれなかったの?
その問いに彼は静かに答えた。
「本当は伸ばしてくれた手を取りたかった。何度も呼んでくれる声に応えたかった。だが、人間に触れてはならないという決まりがあったんだ。触れてしまうと灯は、その夢から覚めることができなくなる」
「え……」
それに「あの姿を見せると怖がらせてしまうだろ」とクラネスさんは辛そうに笑っていた。
あの日以来、クラネスさんは吸血鬼として私の前に現れていない。
彼は夜にならなければ本来の姿になれないと話していた。しかし夜になると部屋にこもってしまう。
私と会わないようにしていたんだ。
私を、怖がらせないために。
怖かったら言えと言ったのはクラネスさんなのに、やっぱり気にしていたんだ。