あれ、あそこに見えるのは……。
待って、私を置いていかないで。

何もない真っ白な空間。どこまで続いているのか分からない。
目の前には黒い影がいる。

近づこうと足を動かしても一向に距離が縮まらない。あの影は全く動いていないのに。

あなたはいつも遠くにいる。

どうして?なぜ届かないの?
こんな必死に手を伸ばしているのに。

その影は人のような形をしていた。

あ、待って!

影が動き出したのと同時に自分の足も軽くなった。

――届け。

その願いが通じたのか、手が影に触れた。
(のが)すまいと何かをギュッと掴んだ瞬間、
ものすごいスピードで離れていった。

「待って!」

もう、一人にしないで……お母さん。