真っ黒なローブを纏い、夜の街を舞うように歩く少女の名は(あかつき)一夜(ひとよ)

この少女こそが街で有名な夢売り少女である。

ゆらりと零れ落ちそうな火を灯したランプが掛かった少し怖そうで一見綺麗にも見える小屋の中に慣れた手つきでドアノブを回し入っていった。


中にいる羽根ペンを持ち何が書き込んでいる切れ長の目をした女性と目が合う。一夜はにっこり笑って形の整った口を開いた。


「紅さんこんばんは。」

女性の名前は(べに)と言うらしい。


「今日の夢はどんな夢?」


そう聞くと紅は奥の部屋に入って行き、少しして紫色の液体が入った小瓶を一夜に手渡した。


「今日の夢もとても素敵だね」


小瓶を掲げ下から覗くように目を細めて見ながら言う。


すると紅も切れ長の目を細めて言った。


「今日はどんな人が買ってくれるかね」


その言葉を聞くと一夜は掲げていた小瓶を小さな巾着袋の中に大切そうに入れてキュッと袋の口を閉じると


「じゃあ、行ってきます」


と言って古びた扉を開けて夜の街にまた出ていった。
一夜の居なくなった部屋は静まり返り紅は一夜の小さくなっていく背中を見つめて言った


「あの子はいつになったら救われるのか」


その言葉は誰にも届くことなく夜の街に消えていった。