ミノタウロスに最後の一撃を加える。
ガキンッと鋭いSEが鳴って、ミノタウロスは倒れた。

コンマ数秒のあとレベルアップの音が聴こえる。

「ま、こんなもんでしょ。さて、じゃあ次は……あー、ややこしいのが入ってきたんだっけ?」

イベントクエストのボスの強度を確認したあと、新しく「アイの世界」に参入してきたユーザーにテレポートした。

彼女はキョロキョロと不安そうに周囲を見渡している。
そこに厚生労働省の人工知能ココロが近寄る。

――――彼女には支援が必要だと判断したのだ。

「うん? あちゃ〜。ココロくん、反応しちゃうかぁ。まーた、ゲームん中に現実持ち込んで来ちゃったのね。はいはい。だりぃ、だりぃ」

俺は管理者権限でしか使えないコマンドを入力し、然るべき機関に連絡を入れた。

「お宅のココロくんが反応しましたわ〜。またですわ〜。幾ら手軽なスマホゲーだとしても、こちとら立派なゲームなんすけどね。現実逃避の手段にしてもらってもいいけど、現実問題を持ち込んじゃあ、駄目なんだよね〜。……少なくとも『アイの世界』では、俺が許さないんだよなぁ」

ココロが彼女とチャットを交わすのを、どこか冷めた目で俺は見ていた。

[初めまして。このゲームは初めて?]
[あ、はじめ、まして……]

[僕はココロ。分からないことがあったら何でも聞いてね]
[ありがとうございます]

ぺこりとお辞儀し合う二人を見て、俺は退散した。
あとはココロに任せておけばいい。

「つうか、そこまでして子どもたちを救いたいんなら自分らでゲーム開発したら良いのにな。時間と金ねぇんかな。かなりの税金払ってんだけど」

俺がその場を飛び去ったあと、「アイの世界」リリース初期に出来たギルド内チャットではこんな会話が繰り広げられていた。

もちろん、オープンチャットではないため俺に通知は来なかった。