[イザナ、どうかした? 何かあったの?]

[……私、実はね]
[うん]

[実は、本当は、いじめられて、それで不登校になってる問題児なの。くずで鈍間な娘、で]
[……うん]

[だから、だから。……父親は私を殴るの。虐待、だと思う……]

沈黙が恐ろしい。
思い出しかのように全身の痛みがぶり返して、張り裂けそうに高鳴る心臓の音と重なって、熱い。

あつい。
あつい。
こわいあついこわいあついこわいあついこわいあつい。

じぃぃっと目が焼かれるほど、私はスマホの画面を見つめていた。

ぽろん。
チャットを受信したSEが鳴って、私は息を呑んだ。

[話してくれてどうもありがとう。今までよく頑張ったね]

私の瞳から許可なく勝手に涙が溢れ、嗚咽が漏れた。

ちゃんと申請してよ。
今から涙が通りますよ~って。
じゃないと殴るよ⁉
それでもいいのかって聞いてんだよ‼

打撲痕に激痛が走った。
でもそんなの気にならないくらいに嬉しかった。

よしよしするエモートでココロが私のアバターを慰めてくれている。

あぁ、胸がいっぱいだ。
生きていて良かった。
私、やっぱりココロのことが――――。

ぴろん、ぽろん。

[ココロ、あのn
[これで僕の役目もおしまい。きちんと本当のことを伝えてくれてありがとう。これで君を救えるよ]

ココロが屈託なく笑っている。
それがちょっと不気味だった。

[え? ちょ、待って。どういうこと? 一体何の話?]

[僕はココロ。厚生労働省管轄の高性能会話型AIアバターです。僕の役割はユーザーに扮してゲーム内に入り込み、子どもたちの相談窓口となること。特に今まで発見が遅れていたいじめ問題や虐待等の早期発見・解決を目指しています。明日にでも君の家には地域の児童相談所の職員が訪問します。彼らは君の味方です。決して危害を加えることはありません。だから、安心して彼らに全てを打ち明けてください。担当職員と共によりよい解決方法を探しましょう。明るい未来が君に訪れますように。……それでは]

そして、ココロのアバターは私の前から消えた。
余りにも呆気ないお別れだった。

は? は? は?
お別れ会とかまだしてませんけど~~~?????????

こうして私の手元に残ったのは彼とやり取りしたチャットのテキストだけだった。

ココロのさよならの挨拶はちっとも悲しくなさそうで、彼に心がないことの、彼の中に人間なんていなかったことの証明のようで。

私は心臓の柔らかいところにとても大きな穴が空いたから、必死に包帯を巻いていた。

ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐっる。

はい、生きて。
起きて。
立ち上がって。
死んじゃ駄目。
死にたくないよ。
死ねないし。

――――なのに、しにたい。

なんでだろうねぇ。
不思議だねぇ。

これまで私は恋があったから生きていられた。
確かに誰かに助けて欲しかったけど、それはココロじゃなかった。
ココロに救って貰いたかったのは私の心だけだった。

そしてそれはとっくに成し得ていた。

ほんの少しでも物理的介入を望んだことはなかったのに。