父親が私を殴る。

彼の人生が上手くいかなくなったのは、私が不出来な娘だからだ。
それが彼の暴力を正当化するために彼自身が生み出した屁理屈だった。

学校でいじめられ、そのまま不登校になったときから私は"普通の子"ではなくなった。

母親は腫れ物に触れるように私を扱い、父親はおかしくなった。
母親の虚構の優しさは臆病さの裏返しとも言えたし、父親の狂気は私の正気を麻痺させていった。

……全く、あり触れた不幸だと思う。

父親の拳が私の身体を痛める度訪れる衝撃に、私は身体を丸めて縮こまる。
心はとっくの昔に既に死んでいるのに、こんなときですら身体は生きようとしているなんてやっぱり人間の本能は厄介だ。

これだから人類なんて嫌いなんだ。
大嫌いだ。

こういうとき、私はココロのことを想う。
痛みと苦しみが私というチンケな殻を追い越して、宇宙まで行って、そうしたら私の心だけはココロのことを願うから。

彼を操作している誰かのことを。

どんな人なんだろう。
最悪、私を利用したい悪人でも構わない。

なんだって良かった。
彼のことを考えている間だけは、私を"ココロ"が救ってくれていたのだから。

私はココロに恋をしていた。

だって彼は私のヒーローだから。
それは紛れもなく可哀想な私のためのヒーローだったから。

父親は散々私の身体を殴った後、そのまま部屋を出ていった。

今日も、私が握りしめていたスマホには一切手を出さない。
それが彼らのやり方だった。

打算的で卑怯な大人の成れの果てだった。

インターネットさえあれば私が死なないということをよく理解しているのだ。
自分の子を物理的に殴っていて尚、どうやら私の死を望んでいるわけではないらしい。

大人としての倫理観?
社会的動物としての本能?

彼らは私が死なないことで自分たちがおかしくないことを証明したつもりになっている。
決して一線を超えた訳じゃないんだって言い訳している。

そんなのもうとっくに踏み越えてんのにさ。
だから、そんな両親の姿は途轍もなく哀れで、愚かで、反吐が出る。

――――もう手遅れだよ、バーカ。