「白鳥の“好き”は、」
「―――……、」
「アイツが嫌い、の類義語だろ」


ふは、と笑みをこぼす。「だから、私のこともキライ?」と聞いてくるから、首を縦に振ってやった。


「あんな人と付き合い続けている私を嫌いな藍沢のことが、私は好きだよ」


白鳥咲良には彼氏がいる。
それはそれはイケメンで、人気がある。学校での地位があって、友達も多くて、絶対的決定権を持っている。そして、この学校で誰よりも俺のことが嫌いな男。

巻き込んで俺の人生めちゃくちゃにしたくせに例の年下カノジョとはすぐ別れて、いかにも容姿と知名度と地位で選んだように白鳥を新しい彼女にした男。


見た目と表面評価は完璧。
顔がいいから優位に立って、残念ながら性格の悪さは桁違いだけれど。
その性格の悪さがゆえにその立場を引きずり降ろされることもなく、誰かに反抗されることもなく、自分の思った通りに人生の駒が進んでいく、イージーモードな高校生活を送っている強者。


この教室がまだ明るい頃、彼が彼女の名前を呼んで、まるで自分のものだと見せつけるような教室での二人のやり取り。
その彼女、お前のことめちゃくちゃ嫌いなんだよ。なんて思いながら見るその光景は、滑稽でしょうもなくて腹を抱えて笑うのを堪えているくらいだ。


「あれ、笑ってる」
「好きでもない男に触れられて喜んでる白鳥のこと考えたら面白くて涙が出そうだよ」
「喜んでるように見えるなら、藍沢もまだまだだね」


ゆっくりと近づいてくる。
右手から出てきたサイダーの包みを破る。


「言っておくけど、」
「言わなくてもわかるよ」
「――――……、」
「今日は金曜日だから、わたしは藍沢にしか触れない」