誰からも頼りにされるということは、誰かの意思の決定権を握ると同等だと言っていた。
信頼されるということは、誰かのお手本でいることだと言っていた。

誰かからの信頼、注目、期待。それを背負って生きていく中に、ひとりの時間はない。


誰にも嫌われない、完璧な人になるには?
そばにいてくれる人をずっと手放さないためには?


誰かを貶す。
誰かを哂う。

自分じゃないから、逃げる。
自分じゃないから、合わせる。

そういう教室で、俺たちはあとどれだけ多数の無知に殺され続けなければいけないのだろうか。



白鳥咲良はクラスで一番目立っている女子グループの中で絶対的な権力を持っている。
誰もが憧れる容姿、運動神経もよくて、頭もよくて、コミュ力も高くて、友達が多い。
吹奏楽部の部長で、先生からも頼りにされていて、大学は推薦が簡単に決まるような、いかにも完璧な女子生徒。

おまけにクラスで一番目立って顔もよくてサッカー部のキャプテンをやってるいかにも陽キャみたいな男と付き合っている、理想の女子高生。



軽音部に入ったのに先輩と組んだから一年で解散。
部活に顔を出さなくなって、気づけば音楽もやめた、ただの帰宅部。

顔も特別かっこよくもなければ頭だって平均レベル、運動は得意でもなければ下手でもないけどどちらかと言えばやりたくないし、めちゃくちゃ可愛い彼女がいるわけでもない、俺。


おまけにどっかのイケメン陽キャと付き合っていた後輩に委員会きっかけで少しだけ仲良くなったと思えば好意を向けられ、挙句の果てに人の女を取っただの完全に巻き込まれて大炎上。
それまで一緒にいた友達は離れていく、クラスメイトは俺をなかったように扱う。バカみたいにうるせえ一軍からは顔を見るだけで暴言を吐かれる毎日。


唯一の幸いは、アイツらが賢いから直接手を下してこないところだった。
暴力は問題。けど、言葉の暴力は“残らない”からやりたい放題。

物もなくらないし、痣だってできない。
ひとりで生きていくには十分な環境で息をしていた。

それでも、見えないもので壊されていく毎日にはもううんざりだった。