「―――白鳥は、」
「うん?」
「いつまでヘラヘラ笑って愛想振りまいて誰にでもいい顔して、超つまんなくて超ずるい生活続けんの」
「うん、」
「教師も、クラスメイトも、後輩も。お前がこうやって、見せかけの笑顔が面倒臭いとか、友達多くていいことなんてひとつもないとか、あの子たちは私のことが好きなんじゃなくて私の立場に縋ってるだけだとか、そう言うくだらない文句言うやつだって思ってないのに、いつまで嘘くさい顔張り付けて生きてんの。それで毎日、お前は楽しい?」


右手にサイダー味の雨を握りしめた彼女は、俺の机の前の椅子に足をかけて、机に腰かけた。
真っ暗な中で慣れた視界に、嘘くさい笑顔を張り付けるのをやめた白鳥の自虐気味な笑みが映る。


「いつまでって言われてもなあ」
「………」
「もうこれが“わたし”、になっちゃったから」
「………」

「だからね、もう藍沢しか知らなくていいよ、ぜんぶ」



例えば。
誰が味方で、誰が敵で。
誰を信用していいか、誰が裏切るのか、誰を疑わなければいけないとか。
そんなしょうもないことを気にする世界で生きていかなければいけないのなら。

本当の自分にすら、自分で気づけなくなってしまうだろう。



「―――白鳥」
「うん?」
「……やっぱお前のことは、嫌いだよ」
「―――うん、わたしは藍沢のこと好きだけどね」