「ねえ、なんで嘘ってすぐに広まるんだろうね」
「嘘だろうが真実だろうが、噂する奴には関係ないからだよ」
「じゃあ結局みんな、噂が好きなんだ」
「そういうこと」

「誰もホントのことなんか知らないくせに」
「嘘かホントかなんてどうでもいいんだよ、あーいうやつらって」
「だいたいさあ、藍沢が人のカノジョとるような男にみえるんかね、みんなは。目が腐ってるんじゃないかな」
「しょうがねーだろ、アイツがイエスって言ったら絶対なんだから」
「ほんと、クソ野郎ね」

「―――ほんと、よく付き合ってられるよな、そんなクソ野郎と」



ふふ、と白鳥は不気味に微笑んで教卓を飛び降りる。
次から体育着履いてこいと告げれば、「藍沢が貸してくれるならいいよ」と返された。

それから俺が居座っている“彼女の彼氏”の机まで近寄ってくるから、俺はそんな彼女を冷たい目で見下ろしていた。



「クソ野郎と付き合ってる私は嫌い?」
「わかりきったこと聞いてくんなよ」
「ふは、まさかたった今カノジョが大嫌いな男に取られてるだなんて思ってないだろうなあ」
「人聞き悪いこと言うなよ、取ってはねえよ、取っては」
「そうだねえ、わたしが奪われにいってるだけだもんね」
「お前も、相当な物好きだよ」
「そう?でもきっと、わたしが“フツウ”だよ」


誰もいない校舎に乗り込むようになったのはいつからか。警備員が仕事をサボり始める時間が20時だと知ったのはいつからか。
くそみたいな彼氏を放っておいて、週末の夜を二人で過ごすようになったのはいつからか。


それを知ってるのは、別に俺たちだけでいいのだろう。