教卓の上で何の気にもせず胡座をかいている彼女に、何度下着がみえると注意したかは分からない。
彼女は決まって「見たいのー?」とおちょくってくるけど、丁重に断っている。

でも気になっちゃうなんて男の子だね、彼女が煽る言葉に毎度スルーで対応することにも慣れている。
こちらに身体を向け、拳をふたつ作って前に差し出す。机3つあいた距離で彼女はもう一度「どっちの手に、はいってるか」と繰り返した。
右って言っただろ、そう言えば、ああ、そうだったねと言って右手を開く。


ど真ん中の席に土足で乗り込んでいる俺は、わざわざ机に靴を置いて踏み荒らす。多少の砂くらい、バカは気づかない。
週明け月曜日にアイツが机に荷物を降ろして、授業中に頬をつけて眠っていると考えると本当に気分は最高だ。



「ジャーン」
「いや、暗くて見えねーっつうの」
「今日はねえ、サイダーだよ」
「ふうん」


今日も彼女の片方の拳には、アイツからもらった飴玉が入っている。

にこにこと笑って、サイダー好き?と聞いてくるから首を横に振る。じゃあ私もキライって言うから、ちっとも面白くないのに笑い返してやった。



―――人の女に手出してんじゃねえよ


あれをイジメと呼ばずして何になるんだろうと散々考えてみたけれど、誰かがイジメだと認めて、それがこの場所での“誤り”だと決めつけられない限り俺は決して「いじめられてる」には部類されないらしい。



最初から仲が悪かった訳でもない。最初から友達がいなかったわけでもない。
最初から学校が嫌いだったわけではない。最初から、学校なんてくだらねえと思っていたわけでもない。

俺はそれなりに友達もいたし、目立って騒ぐようなタイプでもないが普遍的で充実した高校生らしい生活を送っていた。
誰とでも話して騒ぐようなキャラではなくとも、それなりに会話はできるし一人でいることは殆どなかった。


ここでいうのなら、一軍でもなければ、三軍でもない。二軍の中ではまあまあ上の方で、どちらとも会話できるような。
いわば中途半端な人間だった。その定位置についている時点では、全く不自由しない生活だった。

アイツとだってそれなりに仲が良かったと思う。
去年の秋くらいまでは。