―――――20:00


灯りが全部消えた校舎、2階。南側から3番目の教室。
スマートフォンの照らす画面だけが、その場所に俺たちがいることを示していた。



制服姿で教卓に裸足のまま飛び乗って胡座をかいている彼女と、教室のど真ん中の机に土足のまま上がり込んでいる俺。
暗がりでたったふたりだけが、この教室で息をしている。

毎週金曜日、19時55分に校舎裏の抜け道を利用して校内に忍び込む。警備員の見回りが完全に終了したあとに乗り込む校舎は、自分たち以外誰もいない。
その背徳感が、彼女の望むものだろう。


黒板に手を伸ばして白いチョークを握り、絵心のない動物を書いては、「猫じゃなくて、虎だもん」と俺の答えに頬を膨らます。
スマートフォンを眺めている俺に向きなおって、彼女は今日もくだらない話をする。



「――…なんで俺に聞くんだよ」
「えー?当事者だからじゃない?」
「ふうん」
「何言われても黙ったまま。手出してこないだけましだけどさ、反抗すればいいのに」
「無駄だろ、そんなことしても。余計に面倒臭くなるだけだ」
「まあ、無駄、だよねえ」



誰が悪かったのか、
俺は悪くなかったとか、

じゃああいつがすべて悪いんだ、とか。



「どうでもいいよ」
「……どうでもいい」
「ああいうやつらは、どっか知らないところで痛い目に遭って、寿命縮めてて、俺よりもすげえ早く死ぬんだよ。どうでもいいけど」
「どうでもいいしか言ってないよ」
「それ以外に示す言葉がない」
「うん、じゃあどうでもいっかあ」