音楽が好きだった。
中学一年生で親父に譲ってもらったギター。必死にコードを覚えて、親父が好きなあの古いバンドを部屋でかき鳴らす。
高校に入って、ふたつ上の先輩たちと組んだバンドでギターを鳴らして、マイクの前で歌っていた。
目の前がキラキラしていた。すべて、うまくいくと思っていた。あの頃が俺の、全盛期だった。
先輩の卒業と同時に行かなくなった部室、それでも一人で唄うことをやめなかった。でもいつしか唄うことすら嫌になって、手放したギターは、生きてる価値ない俺に触れられるのは可哀想だからクローゼットの中で眠ったまま。
放課後、放送室。
下校時刻に誰かがリクエストした流行りのJポップを流す。
校舎のど真ん中のその教室から、のんきに背を向けて下校する奴らを中指立てて見送る。
自分が嫌いでも、学校が嫌いでも、音楽を嫌いになることだけはできなかった。
放送室で誰かが好きな音楽を流して、その音楽を聴いて口遊む誰かがいるのは、嫌じゃなかった。
毎週金曜日の担当。
ノックなしで入り込んできた扉の隙間で、フルートを抱えて彼女は底辺の俺に話しかける。
「ねえ、例えばさ。高校を卒業した後、わたしたちは二人で音楽を始めるの」
「――――……」
「藍沢がギターとボーカル、私はそうだな、実はベースもドラムも出来ちゃうけど。どっちがいいかな?」
「……白鳥」
「バンドマンの定番はラブソングだけど、私たちは違うよ。世の中くだらないけど、死にたくなっても、こうやって生きてきたやつがいるんだぜって見せつけてやるの」
「――――……」
「藍沢の“声”で、誰かを救ってあげるの」
私たちは自分たちのことを救えなかった。
一人で強がって、お互いが出会えなかったら私たちは、自分が傷ついたことだけをずっと引きずって、そのせいで人生が狂わされて、めちゃくちゃになって。嫌な記憶を嫌な記憶のまま保持して、死んじゃうんだよ。
誰かの視線が、鋭い刃物に突き付けられてるみたいで。
わたしは、それに怯えて過ごしてた。
わたしは何も悪くないのに、もしかして、わたしも何か悪かった?
気づいたら自分の知らない自分が出来上がって、人に嫌われるのを恐れるだけの毎日になって。
いつかこのレッテルがボロボロに引き裂かれてひとりになったらどうしよう、そんなこと考えて怯えて過ごしてる、一軍ってそれくらいしょうもないんだよ。