見えない権力を行使して教室を支配するアイツも、
その周りで騒いで嫌われないように振り回される金魚の糞みてえなバカも、
見て見ぬふりして赤の他人のように振舞い自分がターゲットになるのを恐れるクラスメイトも、
自分は何もわかっていないと、言い訳に逃げる大人も、

いま、この場所には誰もいない。


視線を合わせる。唇を重ねる。

視線で俺を嫌い、口から零す言葉で罵るアイツらへの反抗は、
この教室で一番慕われている彼女を、今だけ自分のものにする優越感で誤魔化す。


誰にも嫌われたくない白鳥と、
誰もに嫌われている、俺。

誰かに嫌われた過去がある白鳥と、
誰かに嫌われている今にいる、俺。



誰がふたりのことをわかるんだ、
きっと誰にもわからないよ、
でも、それでいいんだよ、


「私のぜんぶは、藍沢だけがわかってくれるからいいの」



たったひとりだけだった。
目の前でか弱く泣き続ける大嫌いな女が、俺のことをわかってくれる、たったひとりだ。















「―――ねえ」
「………なに」
「もう、うたわないの?」
「うたわない」
「なんで?すっごく、もったいない」
「………白鳥に、何がわかんの」


「誰にも言えない気持ちは、音にしちゃえばいい」
「………、」
「ほら、一年生の文化祭のとき、そう歌ってたでしょう?」


「わたし、藍沢の歌声、好きだよ」