真っ暗な教室。
白鳥のスマホが照らしていたライトが消える。
俺たちはおそらく、誰にも見つかることはないだろう。


誰にも知られなくてもいいから、
もう誰も、見つけないで欲しい。


封を切った飴玉を口の中に放り込み、口角を上げた彼女はゆっくりと近づいてくる。
ふたりだけの秘密ってオシャレでしょう?そんなこと言っていた彼女に、俺は呆れながら流されて。そんな秘密の優越感を持ちながら、こころの中であいつを哂ってる。


楽しそうに微笑んだ表情、首に腕が回って胡坐をかいていたそこに彼女の膝が乗る。
瞼を閉じても上向きの睫毛をじっと見ていた。


唇が重なる。
無駄に赤い口紅が嫌いだと言えば、次の週から穏やかなピンクの唇に変えて「金曜日だけは、藍沢の好みの女の子になってあげる」と微笑んだ彼女の、甘い香りが鼻を掠める。


これがばれたら、いよいよ俺はこの世界から追放されるだろう。
それはそれでいいかもしれない。馬鹿馬鹿しくて、くそみたいな世界で息をしている必要なんてないのだから。

それでも、毎週金曜日だけの背徳感と優越感が、俺を今日もこのくだらない教室で生かしている。



唇を押し入って入ってきた舌が、コロン、と飴玉を転がして口内に移しこむ。
サイダーの味がするそれをおとなしく受け取れば、唇はわざとらしいリップ音を響かせてゆっくりと離れていった。


視界に映る整った顔が綺麗に歪められていて、俺はそれを美しいと思った。