俺は静香に一目だけでも会えればと自分の気持ちを優先してしまった。

往復、タクシーを使えば、迷う事もないだろうと鷹を括っていた。

「それじゃあ、よろしく頼む、行き帰りタクシーを使え、俺が手配しておく」

「分かりました」

それから俺はタクシーを手配した。

マンションから会社までと、会社からマンションまで。

静香はタクシーに乗って会社に到着した。

俺はこの時、ちょうど電話中で、秘書の金山に静香に別室で待つように伝えて欲しい旨を指示した。

まさか、金山が静香に対して不満をぶつけるとは夢にも思わなかった。

「私は真壁社長の秘書をしております金山と申します、真壁社長の奥様でいらっしゃいますか」

「はい」

「ありがとうございます、スーツをお預かり致します」

「よろしくお願いします」

そして静香は帰ろうとした時、金山は一言二言言わないと気がおさまらない気持ちだった。

「あのう、ちょっとよろしいでしょうか」

「はい」