「そんなものばかりでは栄養が偏ります、奥様に食事を差し入れて頂いたら如何でしょうか」
と小言を言ってくる。

俺は静香の入院の事は話してあったが、無事退院のみで、記憶障害については誰にも話していない。

妻と子供がいるのに、会社で寝泊まりしてカップ麺ばかり食べている俺の食生活に疑問を抱いているようだ。

そんな矢先、取引先へ出向くためにスーツが必要になり、静香に会社まで持ってきてくれるように頼んだ。

「静香、お疲れ様、変わりはないか」

「はい、翔太が真壁さんに逢いたがっています」

「そうか、今忙しいから今度時間作ると伝えてくれ」

「分かりました」

「ちょっと、静香に頼みたい事がある」

「何でしょうか」

「俺の寝室のクローゼットの左にあるスーツを秘書の金山が取りに行くから、
出して置いて欲しいんだ」

「スーツですか」

「そう」

「私が届けましょうか」

静香から思いもよらぬ言葉が出てきてちょっと驚いた。

「大丈夫か」

「はい」