「そうだな、ゆっくりと思い出すようにって、先生に言われてる」

「分かった」

静香の病室の前で翔太は「頑張るぞ」と気合を入れていた。

病室のドアをノックすると「はい」と静香の声が聞こえた。

ゆっくりとドアを開ける。

翔太は病室に入ると、静香に手を振った。

静香も翔太に手を小さく振った。

「翔太くん?」

「うん」

「お利口さんね」

翔太はゆっくり静香に近づいた。

「今日ね、幼稚園でママの顔を書いたんだ」

「そう、翔太くんのママは綺麗?」

「うん」

そう言って手鏡を静香に渡した。

静香はなんの事だか分からなかったが手鏡を受け取った。

「ほら、綺麗でしょ」

「翔太くん、手鏡に写ってるのは私よ」

「だって、ママ……」

翔太は急に静香に抱きつき泣き出した。

「ママ、ママ」

俺はこんな小さな子供に残酷な事を言ってるんじゃないのか。

その時、静香は翔太の頭を撫でて抱きしめた。

「翔太くんはお利口さんね、大丈夫、男の子は泣いちゃ駄目よ」