「はい、病院へお越し頂けますでしょうか」

「わかりました、これから伺います」

俺は病院へ向かった。

病院に到着すると、静香は個室に移っており、先生の診察を受けていた。

「真壁さん、こちらにどうぞ」

静香は俺をまっすぐ見つめた。

瞬きを何回か繰り返し、そして視線を逸らした。

駄目か、やはり俺の記憶は無いのか。

先生は静香に質問を始めた。

「ご自分のお名前はわかりますか」

「わかりません」

「そうですか、この病室にいる人の中に見覚えがある方はいらっしゃいますか」

静香は俺の顔を見つめて考えている様子だった。

「こちらの男性はわかりますか」

しばらく沈黙が続いた。

静香の唇が動いた「どなたですか」静香の中の俺は消えていた。


「俺は真壁翔、三十二歳、真壁不動産社長だ」

「社長さん、若いのに凄いですね」

「そうかな」

「ご結婚はされているんですか」

「うん」

「きっと若くて可愛らしい奥様なんでしょうね」

「妻の名前は真壁静香、四十七歳」