私は振り向きもせず、会社を後にした。

あの忌まわしい過去から、未だに前へ進めない。

全ての男性が、私を騙そうとしていると思ってしまう。
しかも、真壁くんは私より十五歳も年下で、この会社の御曹司。

ゆくゆくはこの会社を継いで、社長になる人だ。

そんな人が、私みたいな冴えないアラフォーを好きになるわけがない。

遊びか賭けか、どっちにしても坊ちゃんの道楽だろう。

早く忘れよう、今ならダメージも少なくて済む。

次の日、朝、頭が痛くて起きられない。

私は会社を休むことにした。

「本郷部長、おはようございます、申し訳ありませんが、今日は頭痛が酷くてお休みを頂きたいのですが、よろしくお願いします」

「大丈夫か、ゆっくり休め、今日は水曜日だから出社は来週からでいいぞ」

「ありがとうございます、そうさせて頂きます」

ああ、良かった。

真壁くんを嫌いなわけじゃない、彼の遊びに付き合う余裕がないだけ。

その頃、経理部では本郷部長から、私が今週いっぱい休む事が知らされた。