私は帰りの足取りが重く、スマホのマナーモードも解除するのを忘れていたため、真壁くんからの着信には気づかなかったのである。

もう期待する事はやめよう。

婚約者がいる人と食事なんて駄目だよね。

次の日会社に出社した。

私は気持ちを切り替えようとしていた。

経理部の部屋の前の廊下で「社長、お待ちください」と叫んでる声が聞こえて来た。

次の瞬間、経理部のドアが開き、真壁くんが姿を現した。

真壁くんは私を目視して近づいて来た。

私と向かい合うといきなり「静香、ごめん」と頭を下げた。

嘘、皆がいるのに、人目も憚らず、大きな声で誤ったのである。

私は皆の視線を浴びて、恥ずかしくて戸惑ってしまった。

「あの、社長、頭を上げてください」

「許してくれるの?」

「許すも許さないも、私が勝手に待っていたんですから、社長は悪くありませんから」

「だって、俺が誘ったのに、連絡入れることを怠ったから、静香はずっと待ってくれていたんだろ、ごめん」