「いえ、タクシーがお迎えに来られたので、スーツを持って真壁様の会社に向かわれて、
まだお戻りになっておりません」

「分かった」

「どうかなさいましたか」

「静香の行方がわからなくなった」

「それはご心配ですね」

「戻って来たら連絡してくれ」

「かしこまりました」

俺はすぐに会社を出て、静香を探した。

「社長、お戻りください、もう出かけるお時間が迫っております」

俺の背中にかけた金山の声は俺には届かなかった。

俺は必死に静香を探した。

なんでスーツを届けるなんて頼んだんだろうと悔やんでも悔やみきれない。

金山の性格上、俺の生活にお小言を言っていたから、静香を目の前にして

一言二言文句が出たに違いない。

静香にしてみれば、なんでこんなに文句を言われているのか分からなかったんだろう。

久しぶりの外と慣れない環境とで、相当混乱したに違いない。

でも、ふらふら歩いて行ったんだろうから、まだそう遠くへは行っていないだろう。

俺は敢えてビルの裏手に周り探した。