「はい、よろしくお願いします、きっとこの子が最後の希望だと思うので、大切に育てたいと思います」
「良かったあ」
この日からあゆみはマンションに残り、穏やかな妊婦生活を送り、俺は店を繁盛させる為に日々奮闘していた。
「友梨ちゃん、あゆみが妊娠したんだ、これから俺が頑張るから協力してくれる?」
「おめでとうございます、頑張りましょう、あのう、この間いらしたヒカルさんって彼女いるんですか?」
「ヒカル?いないと思うけど、あいつホストだよ」
「麻生さんだってホストなのにあゆみさんと結婚したじゃないですか」
「それはそうだけど……」
「紹介してください」
「わかった」
俺はヒカルに連絡を取った。
「麻生さん、どうしたんですか?」
「あゆみが妊娠したんだ」
「おめでとうございます、良かったですね」
「ああ」
「それから、花屋で働いてくれてる友梨ちゃん覚えてるか」
一瞬ヒカルの表情が変わった。
「お、覚えていますよ、お嬢様だって言う子ですよね」
「お前が好きだってよ」
「えっ?」
ヒカルは狼狽えた態度で、しどろもどろになった。
「ヒカル、友梨ちゃんに惚れただろ」
「そんな事ないですよ、手を出すなって言ったのは麻生さんですよ」
「それは友梨ちゃんとは遊ぶなって事だよ」
「俺は遊びで女と付き合った事はないですから」
俺はニヤッと口角を上げた。
「お前今彼女いないよな」
「いないです」
「お客さんと寝てねえよな?」
「そんな事してないですよ、麻生さんがするなって言ったんじゃないですか」
「そうだったな、友梨ちゃんとデートしてみるか」
ヒカルは顔が真っ赤になり、戸惑っていた。
「そうか、じゃ友梨ちゃんに言っておくよ、ヒカルも友梨ちゃんが大好きだってな」
俺はスマホを切った。
ヒカルがあゆみに惚れてるのはわかっていた。
でも、友梨ちゃんの事を意識しているのも事実だ。
友梨ちゃんの存在がヒカルの中で大きくなってくれたらと密かな思いが脳裏を掠めた。
ヒカルがホストの仕事を続ける限り、友梨ちゃんとの結婚は無いに等しいだろう。
そんな二人を引き合わすのは酷なことかもしれない。
でも、もし惹かれ合う関係なら俺が手を貸さずとも二人は人生を共に歩むだろう。
もし運命の相手じゃ無いのなら、いくら俺が引き合わせても続かないだろう。
ヒカルが友梨ちゃんに惚れても振られる可能性も歪めない。
まっ、運命に任せるしか無いなと俺は自分に言い聞かせた。
店に行って友梨ちゃんにヒカルの気持ちを伝えた。
「本当ですか?」
「ああ、これヒカルのスマホの番号、かけてみな?」
友梨ちゃんは俺からのメモを受け取り、俺の目の前でヒカルのスマホに連絡を取った。
すごく積極的だとは思っていたが、俺は友梨ちゃんの行動に驚いた。
「友梨です、麻生さんから番号受け取りました、もしもし?寝てましたか?この番号私のスマホの番号なんで登録しておいてくださいね、また連絡します」
友梨ちゃんはスマホを切った。
「なんか寝ていたみたいです」
時計を見ると、朝の六時だった。
仕事から戻って眠りについたばかりの時間だ。
「麻生さん、今日も頑張りましょう」
「そうだな」
友梨ちゃんはあゆみとは真逆の性格だなと思い、思わず笑みが溢れた。
ヒカルにはお似合いかもしれないと思った。
あゆみの妊婦生活は順調に進んでいた。
つわりが酷く、横になっている日が多くなった。
「あゆみ、ただいま、大丈夫か」
俺は店から戻るとあゆみの寝室を覗いて声をかけた。
「凌、お帰りなさい、お疲れ様でした」
「友梨ちゃん、今日も頑張ってくれていたぞ」
「そうですか、今度何かの形でお礼をしたいです」
「そうだな,ボーナスでも出すか」
「そうですね、凌にお任せします、経営者としてホストクラブを大きくした経験者ですから」
「そう言えば、友梨ちゃんにヒカルを紹介してと頼まれて、友梨ちゃんの気持ちを伝えたら、ヒカルの反応は満更でもなかったよ」
あゆみは満面の笑みを浮かべていた。
「お似合いかもしれませんね」
「だろう?」
あゆみは急に目にいっぱいの涙が溢れた。
「あゆみ、どうした?」
「こうして、ゆっくり凌とおしゃべり出来て嬉しくて」
あゆみは嬉し涙を浮かべていた。
俺は花屋の店舗をなるべく繁盛させると計画していたが、そうではなくてやはりあゆみの夢は俺となるべく多くの時間を共有する事なんだと気づいた。
俺の存在意義は、ここにあると今更ながら感じた。
あゆみ、俺はお前と巡り会えて良かったと思っている。
あゆみの選択により俺の人生が大きく動いた時点で、お前は俺にとって奇跡だ。
記憶が無くなってもまた再会し、愛することとなるなんて、今は一分一秒でも一緒に過ごしたい。
あゆみ、愛している。
お前は俺の全てだ、記憶の彼方の奇跡の愛。
そして、夜の帝王の一途な愛、記憶が消えても何度でもお前を愛すと誓う。
END